暑く開放的な夏が過ぎ去って、秋が到来した。
木々の葉たちは華麗に色づき、風は頬を冷やすようになった。

僕は、久しぶりに一人で街を歩きながら、季節の移り変わりを
景色と匂いと人々の表情で感じる。
この時期になると
街全体はハロウィンのムード一色になって、
街のあちらこちらでいろんな表情を持った
ジャック・オー・ランタンが飾られている。

オレンジのカボチャ。
その姿を見かけると
脳裏をかすめる、遠い日の記憶。






忙しい母も僕の誕生日だけは、たくさんの料理とケーキを作ってくれた。
その中には豪勢で、華やかなものもあったろうが、
僕が特にお気に入りだったのは、鮮やかなオレンジが食欲をそそる
甘いパンプキンスープだ。

暦はまだ秋なのに、少しあわてん坊の冬が
顔をのぞかせるような寒い夜に
木製の大きなスプーンでとろみのあるアツアツのスープを
すくい口に入れると
素材そのものが持つ深い甘さが口いっぱいに広がって
温かさに頬を染める。

自然に笑顔になって
父さんが、ほっぺが真っ赤だぞと
指でつんつんつついてくるから
くすぐったくて、
僕は声をあげて笑ったら
バーナビーは本当にかぼちゃのスープが好きね、
と母も優しく微笑む。








思い出すその光景はあまりに優しくて、
そんな父さんと母さんにもう会えないなんて
僕は背筋が凍る様に寒くなった。


無意識にライダースのジッパーを上まであげる。
寒い。















そんな僕の鼻腔を
くすぐる甘い匂い。
懐かしく嗅ぎ覚えのある匂いだ。

僕の足は誘われるように、大通りを離れ
狭い路地の、そのまた路地に入っていく。

一歩大通りを離れるだけでこんなにも景色が違うなんて、
とバーナビーは歩きながら思った。
人通りはまばらになり、
流れる空気や時間までもが変わったような気がした。



僕の足が止まる。
先ほどよりグッと濃度を増した甘い匂いは
どうやらここからやってくるようだ。
赤レンガ造りの小さな家の前に立って
全体を眺めた。
はじめ民家かな、と思ったが
レストランらしく
ドアの隣に小さく看板が出ている。


木でできた扉を押して
中に入る。
店内は小さく狭く、照明は淡い橙で
隅に小さな暖炉があった。








「あら、いらっしゃい。」
恰幅のいい女性が、目の前のキッチンから顔を出した。
まあるいメガネをして、大きな花柄の可愛らしいエプロンをしている。
目元の笑いじわがとってもチャーミングで
僕はサマンサおばさんのことを思い出した。

「もうやっていますか?」
「今開けようと思っていたのよ、どうぞ座って。」
にっこりとほほ笑んで、ゆっくりした口調で彼女は言った。

店の奥に進み、テーブルに座ると、
懐かしい匂いが充満している。

「あの、」
僕は彼女を呼び止める
「この甘い匂いに誘われてきたんです。
これは…」
「いい匂いよね、今日とても素敵なかぼちゃが手に入ったから
パンプキンスープを作ったの。飲むかしら?」

僕はやっぱり、と思った。
微笑んで小さくうなずく。




























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