「いただきます」
シンプルな白い器に注がれた黄色。
上には削ったチーズが添えられている。
一緒に出された木製のスプーンで
僕はその温かなスープを掬い一口飲んだ。




じんわりと身体に染み込むのと同時に、
心の深いところに染み込んでいく。






一気に蘇る記憶たちが、僕の頭の中をバタバタと駆けまわる。

甘くシンプルな味付け。
とろりと柔らかい舌触り。
嚥下したあと口の中迫るこの香辛料の匂い。

すべては母の作ったスープにそっくりだった。
身体全体が熱い。
二人の笑顔が、頭の中に浮かんで消えない。





僕は泣いてしまいそうになる。
久しぶりに触れる両親の気配に
僕はあの頃の僕に戻って
誰かの胸に飛び込んで泣いてしまいたくなる。





でももう両親はいない。
サマンサおばさんも、マーベリックさんもいない。
僕を優しく励ましてくれた人はみんないなくなった。


虎徹さん、と僕は思う。
彼がここにいてくれたら。















「どうかしら?」
キッチンから出てきて、彼女が僕に話しかける。

「…とても、おいしいです。甘くて、あったかくて」
「そう、よかったわ。」
彼女は柔らかく微笑んだ。

「とても、…母の味に似てるんです」
僕は、ぽろりと言葉をこぼした。
「すごく懐かしくて…」
僕は言葉に詰まる。
目頭が熱い。泣いてしまう。
僕は悟られないように、手の平で目元を覆った。

そっと僕の肩に、彼女の手が置かれたのが分かった。
その体温は僕を励ますようにあたたかった。






「このスープ、もしよければ持っていかない?
鍋に入れて、差し上げるわ」

僕は突然の申し出に、顔をあげる。

「あなたバーナビーよね。ヒーローの。
私、貴方にずっとお礼がしたかったのよ。
実は、私と娘はね、あなたに一度助けてもらったことがあるから」
「え…」
「貴方がいなかったら私たち命を落としていたかもしれないの。
本当にありがとう。私たち、心から感謝してる」



慈愛に満ちたその瞳は、
陽だまりのように柔らかく、それと同時にゆるぎない母性を称えている。


「落ち着いたら、また来てね。今度は誰かと一緒に」



僕はたくさんの優しさにふれて生きている。
そう思った。
彼女は、
聡く思いやりにとんだ彼女は
僕が一人で泣いたりしなくてもいいように、
素敵な提案をしてくれたのだ。



















店を出て
僕は彼にメールをする。
“今から帰ります。
素敵なお土産があります“

話したいことがたくさんある。

それがうれしい。
会ったらすぐ、彼に言うんだ。




このスープ僕の母が作ったパンプキンスープにそっくりなんですよ。




僕はそれを口にして
次こそは本当に泣いてしまうかもしれない。
安心できる彼のそばで、まるで子供に戻ったように
顔をくしゃくしゃにし、息ができないほどに嗚咽してしまうかもしれない。


でもいい。
彼はそんな僕も受け止めてくれるだろう。
困ったやつだなと眉を下げて
誰よりも優しく抱き締めてくれるだろう。

僕は早く虎徹さんに会いたくなって駆け足になる。

腕にかかえたパンプキンスープはまだ温かくて、
愛とは形がないもののはずだったのに
そのあたたかさはまるで愛に触れているようだった。





































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