I love you,dear Ayato.

I love you always.

◆no title 

昨日は眠れなくて


一番効く眠剤、
一番強いお薬をもらって

それでも早朝近くまで眠れなかった


眠ってしまうと薬の作用で

たとえ何をされていても
多少の事なら気にならないくらい
深く眠ってしまうの


今日も眠ってたら

体を動かされて
体のあちこちに触れられてる気配を感じたけど

不快なものは感じなかったから

看護師さんや先生が何か診察とか
着替えさせてくれているんだろうと思って
何も気に留めなかった


そんな事日常で
度々ある事だったから



だけど

そのまま眠って

昼頃目を開けたら

窓際に人が立っているのが見えて
私を見つめていて

目が合ったの


目が覚めましたか、って

理央兄さんそっくりな人


理央兄さんだと思って

こんな時間にどうしているのかわからなくて

慌てて飛び起きた





大丈夫
怯えないで、俺は何もしません、って

これ以上近くへは行きませんから
どうか少しだけ話をさせてください、って



乃亜兄さんだった


最後に会ったのは
まだ私が大学に通ってた頃

声を聞いたのはもっと前

乃亜兄さん
ずっとまだ外国にいると思ってたのに

いつの間に日本に戻ってたんだろう

何の感情も見えない瞳
無表情で冷たい雰囲気纏ってて

昔からそう

驚いたり怒ったり笑ったり
乃亜兄さんが感情的になる姿を私は一度も見た事がなくて



ただ立っているだけで威圧感があって
怒ってるように見えて

怖くてとても居た堪れない


真っ直ぐに私を見つめたまま

久しいですね

俺が分かりますか、って


どうしてそんなに他人行儀なのかも
どうして敬語なのかもわからなくて

何よりどうして乃亜兄さんが此処にいるのかわからなくて

少しも何も理解出来ない状況が
怖くて恐ろしくて


返事も、

頷く事すら出来なかった



乃亜兄さんは


申し訳ない

今日といいますか、
先程、理央の事を知りました

惟人から今朝連絡があり、
とても聞くに堪えない内容に
本当に、耳を疑った

俺から謝罪させて下さい
本当に申し訳ない、って


言われた意味が直ぐには理解出来なかった



理央兄さんの事

兄さんに知られてしまったんだって分かった途端

頭の中真っ白になった




朝のは兄さんだったって、

私の体を調べていたのは兄さんだったって事だけ

すぐに分かった




狼狽える私を見て

惟人は今手続きに出ています
直ぐに戻りますよ、って




ご安心を
もう二度とあなたには近付かせないと誓います


それから

直ぐにこのまま退院出来るよう、今手配しています


粗方理央が裏から手を回して
退院を引き延ばしていたようなものでしょう


先程あなたのカルテと治療記録
検査数値全て拝見しましたが

今のあなたには自宅療養が何よりの治療です、って


退院させてくれるって言われたのに

やっと退院出来るのに

喜ぶ余裕さえなかった
少しも嬉しくなかった

兄さんのことで頭がいっぱいで



だけどその後に


知り合いに専門医がいますので
診療には毎日その医師を伺わせます
心臓内科の名医です

外科にも信頼出来る方がいます
以前から打診していて、先日漸く本人と会う事が出来ました

既に了承は得てあるので
自宅療養で容態を持直し、内科医の了承が出次第
直ぐに彼の手術を受けて下さい


今や医療も驚く速度で向上しているので
彼らならあなたの病を治すことが出来ます

全身の疾患全てを
根治という訳にはいきませんが、
心臓は確実に寛解すると思って下さい


費用は全額俺が負担します

それでも、償うには到底足りない、って言われて、


乃亜兄さんの言葉

頭の中で何度も繰り返した


聞き間違えかと思った

とても信じられなかった

全ての思考回路が停止して

瞬き一つ出来ずに
微動だに出来ない


乃亜兄さん、今なんて言ったの、って
思わず声が出た



治るの、?

心臓、ほんとに?


本当に…?



完治することはないって、

一生戦っていく病気だって、




いつ命を落としても
おかしくない

明日は生きてるか
まだ生きられるか

ずっと常に不安を抱えて

生死がいつも隣合わせで


諦めない事が何より難しかったのに



治るの…?

本当に……?



乃亜兄さんに
本当なの、って聞いたら

ええ、約束します、って




膝抱えて顔埋めて
しゃくりあげるくらい泣きじゃくってしまった

声を殺すのが辛いくらい
涙が止まらなかった


乃亜兄さんに
気を配る余裕さえもう無かった、




何もいらない


償いなんていらないよ

もう十分

乃亜兄さんが私の為だけに
自ら動いて私を救う術を見つけ出してくれた、

私の事
ずっと気に掛けてくれてた


私はもう
それだけでいい、

私にはその事実さえあればいい、





何も望んでない

もう誰一人として
私の所為で不幸になって欲しくないの



みんな優しい人だって

わかってるもの


本当に心無い人は
私がどんな目に遭ったとしても
それを決して酷い行為だとは言わない思わない

罪深い穢れたお前には
当然の報いだと、ずっと言われてきた



私に心がある事をちゃんと理解して
私の過去を哀れんで

こんな私に
優しさを与えてくれる人は
温かい心優しい人、


私は乃亜兄さんにも理央兄さんにも

憎しみや恨みなんて

抱いたことすらない


優しくされた事
ちゃんと覚えてるから



償うことなんてそもそも何もないの



泣きじゃくって
うまく言えなかったけど

とにかくそんな風に伝えた



乃亜兄さん眉を歪めて瞳を揺らして

どうかしてる、って吐き捨てるの


怒ってるって分かった、


たとえあなたがそのつもりでも
惟人は決して許さない

そんなもので罪は消えません

あなたが過ごす筈だったまともな日々を
あなたの人生を奪った者は残らず全て、然るべき罰を

それ相応の制裁を与えられるべきだ、


あなたは自分が
どれほどのものを奪われてきたかわからないんですか、って


俺や理央だけでももう少し、
せめてまともな人間であれば
あなたはこんな、

少なくともこんな、
人生の大半を病院で過ごさずには済んだ、

いつ命を落としてもおかしくなかったんですよ

今生きていることすら奇跡だ、って



俺も理央も、

あなたに兄などと呼ばれる資格はありません



これまでの事、
生涯を掛けて償うと約束します

今回の件についても
理央共に俺も職を辞す覚悟で
賠償含め、刑事責任、全ての責を負います


許してもらうつもりなど毛頭ない、って



必死に今伝えた私の想い、

乃亜兄さんには何にも伝わってない



乃亜兄さんも理央兄さんも

どうしてそんなに罰を望むの





私はただ、
もう一度やり直したいだけなのに、




分かり合える日は来ないんだって、

これじゃ何の為に、って思った時




お前は澪の話、ちゃんと聞いてたの

そんなものを、澪が望むと思っているの、って

兄さんの声


気付かなかった

兄さん腕組んで
入口のドアにもたれ掛かって立ってた

凍て付くような冷めた目で
乃亜兄さんの事睨んでた

私と乃亜兄さんの話
ずっと聞いてたの、






ねえ兄さん、


どうして知ったの…

理央兄さんの事


秋久さん?

その為にわざわざ
帰って来たの、?



会いたかった兄さん、

会いたくて会いたくて
堪らなかった兄さん、


怒りを隠そうともしないその心で
兄さんは今何を思ってるの…




纏う空気、吐き出す言の葉が
いつもの兄さんじゃなかった、




乃亜、
さっきも言ったよね

公にはしない
表沙汰にして傷付くのは澪だから

こんな酷い汚職、
刑事にして起訴したって恰好の的になるだけだ

下らない世間の暇潰しの為に
有る事無い事報じられて暴かれて

心無い誹謗中傷に苦しむのはお前達じゃない、澪だ

身勝手な犯罪に苦しみ続けるのは
いつだって被害者の方、って


兄さん病室に入ってきて
ただ無機質に私の荷物片付け始めて

乃亜兄さんの事
見ようともしない

いないみたいに扱うの



私の事も、

見てくれない



それでも食い下がる乃亜兄さんに
兄さん掴み掛かって


大体、
お前達が職を辞したところで澪に何の得があるの、

医師しか出来ない七光り風情が
それ以外でどう生活していくつもり、

そんな身の上になって
澪に慰謝料なんて払えるの、
それで家族はどうやって養うつもりなの、





お前の考える罪滅ぼしこそが
ただの自己陶酔に過ぎないと、何故わからないの



そんなお前の下らない贖罪に、
犠牲になる家族が不憫でならないよ



それが嫌で
澪は堪えていたんだろう、

そんなお前なんかの為に、
あんな理央の為に、


何の為に澪が一人堪え忍んでいたか


乃亜、お前や理央は

澪の事を
何もわかってやれないんだね

こんな目に遭っても
澪が責めるのはお前達じゃない


わからないの

こんな事がある度に
澪は誰を恨み憎むと思う?


どこまで澪を苦しめるの

何度澪を汚せばお前達は気が済むの、って


冷たい声で吐き捨てて
乃亜兄さんの事突き飛ばすの


怖くて見てられなかった、
止める声さえ出なかった


花瓶が割れて
秋久さんがくれたお見舞いの花

台無しになってしまった、


そんな花すらも
気にも留めないの兄さん






兄さんごめんなさい


ごめんなさい、兄さん……





惟人、場所を変えましょう
澪が怯えています、って

乃亜兄さんの方が気付いてくれた

だけど兄さん

これ以上
お前と話す事などないよ
さっさと出て行って


お前が後残りの人生で
唯一出来ることは澪の心臓を治すこと、

早くその医師を呼んで、


いい、乃亜
決して約束を違えるな

ほんの僅かでも
澪を落胆させるようなことがあれば

今度こそ俺は乃亜、
お前と理央を殺してあげる、って


取り付く島もないくらいの剣幕

声を荒げている訳じゃないのに
他の誰が怒っている時より

何より胸が苦しかった




看護師さんと先生が来て
乃亜兄さんが呼ばれて病室から出て行って

他の看護師さんが
花瓶とお花片付けてくれて

みんな病室を後にして


私と兄さん二人きり、



途端に静寂、

酷い沈黙が続いて


兄さん背を向けたまま

兄さん、って声を掛ける私を遮って

澪、

もうすぐ秋が来るから
秋と先生と先に家へ帰って安静にしてて


俺は遅くなるから、って






はい、としかもう言えなかった


背を向けたまま私の返事を聞いて
そのまま一瞥もくれずに何も言わずに
兄さん、病室から出て行ってしまった




その後少しして秋久さんが来て

車椅子で病院から外に出て
担当の先生と秋久さんと病院の送迎車に乗って

兄さんの家に帰って来た


明日から別の先生、
乃亜兄さんが紹介してくれた有名な先生が
毎日診療に来てくれるみたい




念願のお家

やっと帰って来れたのに









秋久さんは
兄さんが帰って来るまで

お家に居てくれるって言ってくれているけど


一人になりたいって頼んでる、


一人で自分の部屋、
あんなにも帰りたかった私の部屋で

一人でずっと泣き過ごしてる


秋久さんがずっとドアの前で
声を掛けてくれていたけど

もう返事もできなかった








こんな時間になっても


兄さんは帰ってこない














胸が張り裂けそう、

2019/01/12(Sat) 00:51 

◆no title 

秋久さんにも
あんな風に労わるみたいに頬を撫でてもらったり、

呼吸を落ち着かせる為に
抱き締めてもらうことすら、もうはしたないのかも

あやしてもらって落ち着いたり、
優しくされて嬉しいって思う事、

嬉しいって、優しいって、

そんな風に思う事自体が
私っていやらしいの…?

優しい大好きな人に
抱き締めてもらえたら安心する

触れてもらえたら
愛してもらえているみたいで心が温かくなる

でもそれは男性女性関係なくて
私にとって大切な人だから

家族とのスキンシップに近い、
そんな気持ちでずっといたの

もう何が良くて何が駄目かわからない

慕っているつもりでいた、
でも人から見ればそれはただあざといだけなのかもしれない



はしたない私は
本当に誰でもいいのかな…

自分が何よりも恐ろしい、


今になって
理央兄さんに組み敷かれて
何度も体を重ねたこと、

この一ヶ月の事が、
より一層生々しく蘇って

自分の反応
自分の体がおかしいんだってわかる、



どうして、?


少しも望んでないのに、

あんな事、



理央兄さんは兄妹なのに、、






どんどん大嫌いになる、
私は私のこと、




性根が汚れてる、


こんな浅ましい私だからいけないの






消えてしまいたい、

2019/01/11(Fri) 03:53 

◆no title 

夕方、
秋久さんがお見舞いに来てくれた


明けましておめでとう、って

無事に新しい年を迎えられたね
よく頑張ったね、って

お見舞いの花持って
会いに来てくれたの


花はフクジュソウ
花言葉は「永久の幸福」、「幸せを招く」


惟人が年末から
ずっとあなたを置いて
出張に行っていると聞いたから

あなたが
寂しい思いをしてるのではないかと思って、って

優しく微笑んで下さるの



優しい秋久さんは
兄さんと重なる


優しく微笑んでもらえるだけで
なんだか泣きじゃくってしまいそうになった


今は人の優しさが
何よりも尊く感じる


だけど今日は
ずっと気を張っていた糸が切れて、

理央兄さんのこととか

色んな感情が渦巻いてて


起きてからずっと嘔吐と
過呼吸、喘息を繰り返してて、


秋久さんには

いつも見られたくない姿ばかり、


笑ってありがとうって言いたいのに、



自分の胸、喉から出る、
ひゅーひゅー鳴る音が

ぜーぜー必死に肩で息をする音が
自分でもとても不快で


小さな頃からいろんな人に
ずっと耳障りだ、って言われてたのを思い出した


必死に抑え込んで
ごめんなさい、って謝ったら

秋久さん難しい顔



あなたのそういう些細な言動で、
どんな風に育ってきたのかがよくわかるよ、って

こんな時でさえ
少しも労ってはもらえなかったんだね


あなたは
僕の娘だったら良かったのに、

大切に愛して可愛がって、
何からも守ってあげたのに、って



ベッドに腰掛ける私の肩に
冷えないようブランケットを掛けて

呼吸が落ち着くまで
ずっと抱き締めて優しく包んで下さった

背中をさする手が優しい


秋久さんは本当に優しい、

秋久さんの奥さん、
お子さんはなんて幸せなんだろうって
とても胸が温かくなった

言葉に出来ないほど穏やかな気持ちになれた



そんな風に気に掛けてもらえる事が、

そんな風に哀れんで労って下さるだけで、

私の心がどんなに救われ、報われているか


愛されなかった過去の幼い私ごと、
抱き締めてもらっているような気分



とても表現できないほどの、
身に余る幸福、


秋久さんのこと
どんどん大好きになる

優しい兄さんが
もう一人出来たような気分になるの



人として
本当に素晴らしい優しい人、








窶れてる

少し痩せたね、って

心、見透かすみたいに

心の中、窺うように
相手の瞳を覗き込むのは
秋久さんの癖、

無理に探ろうと、
暴こうとしている訳じゃないって、

ただ相手の反応を少しも見逃さないように

ほんの少しも
取り零さないようにする為だって、

最近やっとわかってきた


それもきっと秋久さんは無意識なの

職業病かな、




だけど

あまりの的中率にいつも震える


あんな事があった後だから余計に、、

どうしても怖くなるの





どうしたの?、って



この前会った時は
具合が悪いといっても、ここまでじゃなかった、って



何かあった…?

惟人が居ないから?

顔色が凄く悪いね



真っ赤に腫らして、
ずっと泣いていたような目だね


いつから眠れていないの?

隈が出来てる、って

そっと頬を包んで
労わるように親指で目の下をなぞるの


言われた瞬間、
触れられた瞬間、

夜中のこと、思い出して

理央兄さんにぶつけられた言葉、
思い出してしまって、



誰にでもそうなの、?

いやらしい君は、
誰に触れられてもはしたなく喜ぶんでしょ、って



いないはずの理央兄さんが
耳元で囁くの、軽蔑したような声、



おかしいの

理央兄さんは、

もう優しい理央兄さんに戻ってくれたのに


もう何も怖い事なんてないのに

心から安心した筈なのに、


一瞬酷く怯えてしまった



秋久さんは
見逃さなかった、



私を見下ろしていた目が驚いたように見開いて


途端に射抜くような真剣な瞳になった


片手で首筋を押さえて
もう片手で頬を包んで軽く拘束するみたいに、
秋久さん私の顔、私の視線を固定して

瞳を深く覗き込むの、


貴秋?、って



何があったの、

帰ってくるなんて聞いてない、って


必死に違うって首を振った、



違う、貴秋じゃない、
貴秋はずっと私を守ってくれてた、


誰でもない、




全部、

全部私の所為、





誤解して欲しくなくて

何も気付いて欲しくなくて


何もないの、って必死に伝えた




視界に映る秋久さんが涙で滲んで
ちゃんとよく見えなかったけど

秋久さんの方が
なんだか泣きそうに見えて、

苦しい切ない顔で緩く首を振りながら


澪、嘘つかないで、って



それでも違うって首を振ったら

僕を惟人の友人だと思うのはやめて、って




どうか僕を、心にいれて


惟人の居ない時は僕を頼って、惟人の為に、って


僕の意思は、惟人の意思だよ、



澪、

何があったの、って


言われて頭の中に、
兄さんが浮かんだ

澪の心、俺に教えて、って

兄さんの優しい瞳、優しい声
優しい笑顔が見えた







見たくない夢を見てたの

それが怖くて眠れなかった、って

早く退院したいのに

強くなろうって頑張ってるのに
実るような成果がずっと少しもなかったから



やっと届いたと思っても、


結局私はいつだって
人を不幸にする事しか出来ないから

少し、気が滅入っているだけだって、伝えた


これは本当の事、
本当に今私が感じている事、


だけど秋久さん悲痛に力無く首を振ったまま


そうじゃない、
そうではないよ、澪

澪、本当にそうなら

誓ってそれだけなら、
それなら、どうしてあなたの…、って
秋久さんが言う前に

その言葉を聞く前に

病室に看護師さんと先生が入ってくるのが見えた

秋久さんも私の視線の先を辿って
言葉を止めて振り返った


検査の時間だった


それ以降私は
何も話さなかった

話せなかった、
担当の看護師さんの視線が気になって、




秋久さん
また明日来るから、って
渋々帰っていかれた


どこか、
助かったと、思う自分がいた



だけど
それもほんの一瞬、

きっともう
すぐに兄さんへ連絡がいく

秋久さんは必ず報告する、
私の事、兄さんに







秋久さん

ごめんなさい、




兄さんごめんなさい


今はもう何も考えたくない

一人でいたい

2019/01/10(Thu) 21:12 

◆no title 

理央兄さん

どれほど苦しかったのかな



奥さん、子供さん亡くされて、

ずっとずっと
一人でずっと




どれほどの悲しみか、

どれほどの絶望か、

想像すら出来ない




母さん父さんを失った時

私もとても悲しかったけど

それでも私にはいつも
兄さんがいたから

どんな時もずっと
兄さんが傍にいてくれたから


今は沙月ちゃん絢斗さんもいる




大切な人がいるから

生きていられる



それを全部失ったとしたら、








生きていけないよ
私だって壊れてしまうと思う、





理央兄さんが可哀想…


言葉に出来ない、



あんな風にどんどん自暴自棄になって

行き着く先はどこになるの、?



助けてあげて欲しい、

誰か理央兄さんの事、、






何もしてあげられなかった







ごめんなさい、

2019/01/10(Thu) 12:37 

◆no title 

ずっと頑張ってる、つもり、

戦ってた、
何度も何度も理央兄さんの壁と、


その頑なな心の中に
私をどうか、入れて欲しくて、

その心に纏う、凍り付いた冷たい雪を溶かしたい、


兄に、戻って欲しい、


だけど

体がどうしてもついてこない、

話をしたいのに
声を掛けたいのに


揺さぶられる衝撃で
発作を起こさないように

ただまともに息をするだけで、精一杯、


その度に

自分の乱れた、
とても正常ではない心臓の音が
危険を伝えてくる、


怖い、

まだだめ、


私はどうしても
一人で頑張りたいの


何があっても、

たとえもし兄さんが離れていっても


ちゃんと生きていけるように、








理央兄さんは


惟人の名前出すだけで
笑えるくらい露骨に反応するよね、って


良過ぎてやめられないな、

君が傷付く度中が動いて
僕を悦ばせている事、わかってる?


必死に抑え込んだって無駄だよ、って

今日の夜中も
文字通りの言葉攻め


そんなに長い間一緒に居るのに
君はいつまで惟人とままごとみたいな事続けてるの、

ちゃんと抱かれてるくせに
何もないなんて言わせない、

のろのろしてると惟人の母親に
君、また殺されるよ


ねえ、
このまま今、
電話してあげようか、惟人に


命よりも大切な君が
今になってまた僕に犯されてるって知ったら
あれはどう思うかな、って




汚れた君に失望するかもね、

だってこんな場所で
こんな状況でこんな僕に犯されても

澪は感じてしまう、はしたない子だから、


今度こそ愛想尽かされるんじゃない?


あれも所詮男だから
君が知らないだけで他に相手くらいいるでしょ


案外惟人も

君の鬱憤を
他で晴らしてるかも




ね、どうしようか、澪


今度こそ

もう捨てられるかも知れないね、って





もうこれ以上

本当にもうこれ以上
言わないで欲しかった、

どれもこれも全て、
間違ってるとは言えない

私が何よりも怯えている事、
心の底で考えている事、全部に当てはまって


心が折れそう

頑張れない、


やめて、って言ってるのに

理央兄さんは冷たい目、
心底うんざりしたような顔で


それしか言えないの、って


気に入らないな
その反応、

本当に嫌なら

誰でもいいから早く助けを求めなよ
大声上げて叫んでみなよ


泣くしか出来ないくせに


僕は事実を述べてるだけ、

瞳を閉ざして震えて怯えて
ろくに声も出さないけど


ちゃんと気持ち良いくせに、

感じてるくせに、




感じるようにしたんだ、


まだ君に初潮もきてない幼い頃から

何年も掛けて
感じるように調教した、

君はいつまで忘れてるの、って



また私の知らない私の話…、

思い出せない
そんな事思い出したくもないのに

理央兄さんはそればかり、



君の体を躾けたのは僕だ

早く思い出しなよ、って


忘れる筈ないんだ

君の体は嫌でも覚えてる筈だよ

だってそれが原因で
君はここまで弱く育ったんだろ、って


覚えていない以前に

何を言われてるかわからなかった


言葉の意味が理解出来ない



どういうこと、って

反応を示す私に理央兄さん、

あれ、知らないの

葵が君に
幾ら賠償金を支払ったか知ってる?、って



割と相当な額だよ

裁判で認められたの知らない?
四年前、惟人が君の為に起こした裁判の事、


君は粗悪な環境で育ちさえしなければ

元々は心臓が少し危ういだけで、
ごくごく健康優良児だった

君の体がここまで貧弱になったのは
僕ら葵の所為だって、



え、何その顔
本当に知らないの、って




知らない、

そんなの


そんな残酷な、
そんな悲しい事、


知りたく、なかった


それだけは聞きたくなかった、、




重い心臓病にまで陥って、体中に疾患を抱えて

精神疾患まで患う羽目になったのは、
3歳からの虐待が原因

両親からの虐待に加えて
一族から受けた事、挙げだしたらキリがないけど

それら全てからくる長年のストレス、
極めて莫大な精神的身体的苦痛からくるものだよ


まともに育てられさえすれば

君は今此処で入院する事すらなかった



生まれてきたのが

君が愛す両親からでなければ

君はもっと幸せな人生を送れていたんだよ、って容赦なく揺さぶる



今までの事
走馬灯のように頭によぎった


決意も根気も何もかも崩れ去ったの


あの瞬間
もう全部諦めてしまおうと、思った

とても処理出来ない、受け入れられない


いくらなんでも、
悲しすぎて、




へえ、そう
知らなかったんだ、って

軽い世間話をするみたいな温度、


理央兄さん




私のこと、本当にもうどうでもいいの、?



もうほんとうに、

やり直せないの、…?




惟人が言う訳ないか
わざわざ君が傷付くような事、

惟人は君を包んで甘やかして

どこまでも自分の鳥籠に
いつまでも閉じ込めていたいみたいだからね


あれも中々屈折してるよね、って


だけど


それで本当に君は幸せなのかな

だってこんな目に遭ってても
君は助けを求めるどころか
惟人に何も言えない、

僕の人生を壊さない為に

僕の家族の為に、かな?

ただひたすらに
誰にも何も言わないでいてくれる



よく堪えられるね、って





これだから馬鹿は扱い易くて良いよね、って

突き上げて嘲笑う






それとも本当は嫌じゃないの



僕にこうされることを望んでる?

そんなに無垢な顔をして
本当は確信犯?惟人だけじゃ足りない?



誰に犯されても喜んでしまうのかな、



どこまではしたない子なの、



淫乱、って




心底軽蔑したような目、









もういや、



こんなの

理央兄さんじゃない、



私の知ってる理央兄さんは


優しかった理央兄さんは、

もうどこにもいないんだと思った、



私の居場所も

もうどこにもない、



涙が溢れて視界がぼやけて

頭の中、心の中
冷え切って凍り付いていくような感覚

理央兄さんの冷たさに凍死していく



もう息が出来なかった










だけど




流石に苛めすぎたかな

ちゃんと息して、って


理央兄さん

止めてくれたの



呼吸の揃わない私に

ほらしっかりして、
過呼吸くらい自分で治しなよ、って


もう面倒だな、って
うんざり溜息吐きながらも

体起こして
組み敷いてた私を抱き上げて




このままだと発作を起こしそうだね


死ぬの?、って覗き込む瞳は



間違いなく
私の知ってる優しい理央兄さんだった、



理央兄さん、

やっと見つけた





僕は死体を抱く趣味はないよ
萎えたな、って悪態つきながらも

体を解放して

パジャマのボタン留め直して
冷えた私の身体、毛布に包んでくれて


温かくはないけど
もう冷たくはない瞳で

そっと私を見下ろすの


なに?変な顔して
どうしたの、って不思議そうな顔、



優しくされて驚いてるの、

私の探してた理央兄さん見つけて
私は嬉しいの、、



僕は自分の玩具は大事にする方なんだ


ほら、どうせ君は
他人の優しさや温もりに飢えてるから

こうして優しく抱き締めてさえいれば落ち着くんだろう、って

毛布ごと抱き締めて
肩で息する私の背中優しくさすって叩いて

息も絶え絶えの私を
落ち着くまでずっとあやしてくれた、



さっきまでとは違う涙が出た、




反論もせず
無抵抗に身を委ねる私を見下ろして

昔からそうだったよね、って


自分を犯す張本人にあやしてもらって何がいいのか、

君は自分がどれほど酷い目に遭ってるのか
いまいちよくわかってないよね

何本当に落ち着いてるの、
こんな状況で馬鹿じゃないの

僕は君の思考が全く理解出来ないよ
何考えてるの、って

理央兄さん呆れたように

だけど初めて
悪意なく笑った、



口は悪いけど心根は優しい、
それが理央兄さん

それが私の知ってる、
幼い頃から変わらない優しい理央兄さん



やり直すなら今、

伝えるなら今しかないと思った



抱き締めてくれる理央兄さんの腰に手を回して
縋る気持ちで抱き着いたの

何、って理央兄さん驚いてた


本当は凄く凄く怖かった

だけど


どうか、
伝わって欲しくて



理央兄さん

お願い、
もうこんな事しないで

お願いだからもうやめて、って伝えた



理央兄さん

何か悲しい事があったの、?

こんな風しか生きれないくらい
もう嫌になったの?

生きていたくないの、?

理央兄さんねえ一体何があったの…


理央兄さん

優しい人だって、知ってるよ

ちゃんと知ってる覚えてるの


理央兄さんの言ってることは
わからないけど

何も思い出せない、

だけど
私ちゃんと覚えてる

知ってるよ



私が五年前
兄さんのお母様、
叔母様のお家のバルコニーから落ちた時、


救急車を呼んでくれたのは理央兄さん


なんて事をするんですか、って
叔母様や親戚の人に声を上げて

澪、しっかりして、
目を閉じないで、って
死んじゃ駄目だよ、って

救急車が来るまで
ずっと私の事呼び掛けてくれてた


入院中も
私の意識が安定するまで

ずっと手を握って
側に付き添ってくれていたのは

理央兄さんでしょう?


頭撫でて髪撫でて頬撫でて
ぎゅっと手を握ってずっと付き添ってくれてた

惟人兄さんかと思ったけど違う

ほんの少しだけだけど

理央兄さんの心配そうな顔
心から私を気に掛けてくれる声

ちゃんと見えてた、
聞こえてた



実家の薔薇園を
ずっと綺麗に保ってくれていたのも
理央兄さん

放って置く事だって出来たのに

私に権利が移るまでの間
庭師や管理の方を解雇せずにずっとお給料を支払って

父さんと母さんの薔薇園を
沢山の薔薇を変わらず昔のまま、
綺麗に美しく咲かせ続けてくれていたのは
理央兄さん

それは理央兄さんが
ちゃんと父さん母さんの事、
大切に想ってくれているから


幼い頃だって、

父さん母さんの目を盗んで
理央兄さんはずっと私に優しくしてくれた


全部ちゃんと覚えてるの


理央兄さん乃亜兄さんの事
最近は嫌いだった、父さん母さんを盗られたみたいで

だけどそんな私に
自分から歩み寄ってきてくれたのは
理央兄さんだよ



優しい人だって、

知ってるよ




十年前から計画してたなんて嘘
理央兄さん嘘付いてるの


手紙をくれた時、

葵の戸籍から出て
まだ私が実家に足を踏み入れられなかった時、

薔薇園も実家もちゃんと管理するって
今までごめんって手紙をくれた時

あの時は理央兄さん
ちゃんと私の事想ってくれてた


誘き寄せるためなんて嘘

だって本当にそのつもりなら
バルコニーから落ちて入院した時に
私のことなんてなんとでも出来る筈だもの

貴秋が日本に帰って来るまで
私の事、ずっと葵から守ってくれていたのは理央兄さん、

あの時は惟人兄さんの手さえ届かなかった
私の事好きに出来たのに、だけどそうしなかったのは

私の事、
ちゃんと妹として想ってくれていたから

理央兄さんはちゃんと愛してくれていた
私のことを家族として


やり直そうと
してくれていたんでしょう?



だけどその後に

そんな事も壊したくなるくらい、

何もかも嫌になるくらい、

理央兄さん
きっと傷付いたの

とても耐えられないくらい
何か悲しい事があった、


だからこんな事するんでしょう




理央兄さん

ねえ
お願い理央兄さん



私の事、

殴ってもいいよ


辛い事、少しでも忘れられるなら
私にならいくらでも手を上げてくれていい

痛くても苦しくてもいいの

慣れてるから
気の済むまで痛め付けてくれてもいい

それで理央兄さんの気が晴れるなら


だけど
体には触れないで

お願い
体繋げたりしないで

それだけはやめて欲しい

こんな事して欲しくない、


こういうことは
私は本当に大切な人としたい


理央兄さんは大切な人だけど
それは兄として

私にとっては家族、
大切な、もう唯一の家族で

父さんも母さんもいない今、
私には理央兄さん乃亜兄さんだけが唯一の肉親、

血は繋がってないかもしれないけど

理央兄さんは私の事
もうなんとも思ってないかもしれないけど

私にとって理央兄さんは家族なの


大切な理央兄さんに
こんな事して欲しくないの

こういう事は本当に心から愛する人としたい


理央兄さんも
心から大切な人として欲しい、


優しい心

どうか思い出して


お願い、捨てたりしないで




お願い理央兄さん


もうやめて、



私は理央兄さんと
もう一度家族になりたい

始めからやり直したい、





こんな事しないで、って決死に伝えた



うまく言えたかどうかはわからないけど

声を出してあんな風に、
あんなにも必死に自分の思いを伝えた事なんてない

多分あんなに沢山喋ったのさえ
人生で初めてかも知れない


私は今まで何一つ、
人に自分から何かを伝えようとはしてこなかった

ただずっと受け身で
抵抗も反抗もせず流されるまま、ただなんとなく
人形のように立ち尽くすだけで

私が何も発しないことで
相手が何を思うかなんて、気にしたことなかった

とにかく自分の存在で
人を不快にしないように、
大切な人を不幸にしないように、

それだけを意識して、

口を、言葉を、
心を、閉ざしてた



だけどそれを変えてくれたのは
沙月ちゃん絢斗さん

生まれて初めて
自分自身の事、知ってもらいたい、
愛して欲しいって思ったの


自ら手を伸ばす事、

自分という人間を表現する事の大切さ、

愛を伝えるということの尊さ、

全部沙月ちゃんが教えてくれた




私はもう弱くはないの

幼かったあの頃とは違うの



過去は過去でしかない、



やり直すことなんて、
何度だって出来る


そこに大切な人がいるのなら

たとえどんなに辛い世界でも

私は何度だって立ち上がる、

そう決めたの



お願い、どうか伝わって

どうか届いて欲しかった、






理央兄さんは



暫く固まっていて、



掠れた声で、
何それ、って


やっとまともに喋ったかと思ったらそんな事…?

大事なことは全部忘れてるくせに
そんな下らない事は覚えてるの、って


嘲笑おうとするけど失敗したような声、瞳、

だんだん泣きそうに震えるの


伝わらなかったと思ったけど違う、

自惚れかと思ったけど違う、





そんな事で全部帳消しになるの、

そんな事で僕を許すの…、


そんなものを大切にして、

そんな小さな思い出だけを頼りに、

何をされても君は耐えてるの


今までもずっと、

君はそんな風に生きてきたの



ずっとそんな風に思ってたの、って


震えた体で

私をきつく、抱き締めてくれた




馬鹿だな

一体どこまで馬鹿なの


僕なんかを、
兄さんだって思ってるの、

あんな事されたのに
まだこんな事されてるのに

僕の事、家族だって?


笑わせないでよ、


今更、やり直せる訳なんかないだろ、って

苦しいくらい強く抱き締めたまま
私の首に髪に顔埋めて

肩震わせる



理央兄さん

泣いてるの、?


私の想い、

ちゃんと伝わったの…?




そうじゃないよ、澪

そんなものを望んでいるんじゃない

許しなんていらないんだ、って首を振るの



僕は君に、
憎まれることを望んでる、

君はずっと
僕を恨んでいると思ってたのに

殺したいほど憎んでると思ってたのに
どうして全部忘れてるの、

そんな微かな思い出だけを大事にして

まだこんな目にあって
なんで許すの、



君は昔から何も変わらない

どうして、
何故君は誰の事も憎まないの、

どうやったら、
どうしたらそんな風に生きられるの、



僕は恨んでるのに



君の両親を、
僕の実の両親さえも、ずっと憎んでる、


恨み辛みしかない、
この世界には憎しみしかない

だってそうだろう?

父や母が僕らを置いて先立たなければ
僕や乃亜はあんな環境で育たずに済んだ

君の両親が、

父さん母さんが、
きちんと君を愛してやっていれば

僕は数多くの過ちを犯さずに済んだ、



許されない事だと、罪深い事だと

誰も何も教えてはくれなかった


狂った環境で
善悪の区別もつけられずにただ甘やかされて、
罪を罪と思わないまま悪行を重ねて、


気付けば取り返しのつかない所まできてた、



僕にはもう、何もないのに



妻も子供も、いないんだよ、澪


君がずっと気に掛けていた人は
もうとっくにいないんだ


亡くなってるんだよ、って絶望した声




今になって仕出かした罪の重さ、

言い様のない後悔が常に押し寄せてくる、


君を思い出さない日なんてない、




僕は君になら
罰せられてもいいと思ったのに、




断罪を望んでる、


君の人生を奪った事、



忘れてるなら
思い出させるしかないと思ったのに


何度もこうして汚してるのに

なんで憎まないの

どうして僕を案じたりするの


どれだけ馬鹿なの、君は、って



散々怒りをぶつけた後












ごめん、澪、って



理央兄さん、

泣き出すの


もうとっくに
理央兄さんは成熟した大人の男性なのに


なんだかとても
幼い子供のように見えたの、



理央兄さんも
悲しい犠牲者、

上手に生きられなくて
ずっと傷付いてた



家族を失って、

何より苦しんでた、




ごめんなさい、理央兄さん

せめてもっと早く、
言えばよかった、


私の方がごめんなさい、

理央兄さんと
ちゃんと話したことなんて一度もなかった、


憎んでないよって
やり直したいって

ちゃんと伝えておけばよかった


もっと早くに


もっともっと私の気持ち、
届ければよかったのに



ずっとずっと苦しんでた、理央兄さん



私の所為、



ごめんなさい…









それからずっと長い時間、

私を抱き締めてた、理央兄さん


理央兄さんの涙が止まってからも

何も言わずにずっと

私の頭、髪、
ずっと撫でながら長い時間、


何も話さないまま

ただずっと理央兄さんの腕の中、




もう少しも怖くなかった







長い時間の後

漸く理央兄さん

腕を解いて


私をベッドに寝かせてくれた

さっきまでとは
別人みたいな優しい手付きで、


私が冷えないように
首までお布団掛けて

頬を撫でるの、



悔いるような、
怒られた子供みたいな頼りなさげな、
とても悲しい瞳で私を見つめて


もう此処へは来ない、

もう悪夢は終わりだよ、


澪、って


苦しそうに辛そうにきつく瞼を閉じる




理央兄さん
死んでしまうんじゃないかと思った


繋ぎ止めたくて、



退院したら

父さんと母さんのお墓
一緒に行って欲しい、って手を伸ばした


理央兄さん
伸ばした手を握ってくれた



本当に、

なんてことをしてきたんだろう、って

顔歪めて涙を零して俯くの




約束はしてくれなかった


もう眠って、澪、って優しい声で
優しい手で髪撫でて頬撫でて



私が眠りに落ちてしまうまで

悲しい悲しい瞳で
私をずっと見つめてた




今さっき朝起きたら、

理央兄さんはもういなかった、












届いたけど届かなかった



笑う理央兄さんの顔が見たかったのに、


結局は何の意味もなかった、

どうやっても
どう頑張ろうと、結局は傷付けて苦しめただけ、


全部私の所為、













理央兄さん



ごめんなさい

2019/01/10(Thu) 08:16 

◆no title 

何日も熱が下がらない

今がお昼か朝か夜かわからないくらい
ずっと熱に浮かされて眠ってた


今日は

理央兄さんが
体の中に入ってくる感覚で
夜中に目が覚めたの、



中、火傷しそうなくらい熱い

凄いね
熱、上がってきたかな

ねえちゃんと意識ある?

気持ち良いけど
反応が鈍いのは少しつまらないな

こないだみたいに泣きながら
絶望しながらいってほしいのにな、って


固く目を閉じて

何も見たくない何も聞きたくないのに

理央兄さん
わざと私が絶望する言葉ばかりを選んで、
容赦なくぶつけてくる


だんだん体を繋がれることより

理央兄さんの冷たさが何よりも身に染みてきて


苦しい、





澪、

ねえ、いつも君
体中から花の匂いがするけど

何、

会わない間に
君は花の妖精にでもなったの、って嘲笑うの


何飲んでるの、
この匂い薔薇?

君はほんとに昔から
馬鹿みたいに薔薇が好きだよね

よく飽きないな


薔薇なんて、

いい思い出なんてないくせに


父さんにも母さんにも、
あれほど虐げられて

君もまぁよくもそこまで大切に思えるよね



馬鹿もそこまでくると最早病気だね、って


毒ばかり、


言われて傷付く私を眺めて
いつもは満足気に見下したように微笑うのに


理央兄さん

なんだか日に日に
少しずつ機嫌が悪くなっていく




ねえ、何か言いなよ

いい加減そのだんまりやめてくれない、って



理央兄さんは

私にこれ以上何を望むの、?


それなら何を言えばいいの、


やめて欲しいって言っても、
絶対に理央兄さんやめてくれないのに



ねえ惟人は

どんな風に君を抱くの、って


甘ったるい愛を
嫌という程垂れ流して
優しく触れてくれるの?、って


そんなの知らない



だってもう全部
どうでもいいとさえ思う自分がいた


考える事、もう疲れた

理央兄さんの事
思い出せない昔の事、

自分の事、絢斗さんの事
リハビリ、病気の事、沢山のこと、





兄さんと、

優紀子さんの事、




もう全部本当に考えたくなかった




仕事だってわかってる、

だけど兄さんは
きっと今頃も優紀子さんとずっと一緒、



一緒に年を越したの、?

新しい一年の始まりを
二人で共に、





年を越して直ぐに掛かってきた
兄さんからの電話、

出れなかった

話したいと、思えなかったの、


生きること、

とても前向きにはなれなくて、




自分の心から体から
どんどん生気が失われていく気がした


今日は理央兄さんに
何を言われてもされても

涙さえ、もう出なかった




だけど


ねえ、

もう薬も打ってないのに
ちゃんと覚えてる筈なのに

澪、君はどうして誰にも助けを求めないの、って


その言葉に
とても違和感を感じた、




夢じゃないってわかったあの日以来
怖くて見れなかった理央兄さんの瞳を見た、


少しだけ、
揺れてた


容赦なく冷たい瞳だったのに

微かに、
ほんの僅かに、私を案じる意図、




優しかったあの頃の、
理央兄さんの瞳、


垣間見えた気がしたの、


欠けたパズルのピースを見つけたような感覚、




毎日毎日
なんで大人しく耐えてるの、
馬鹿なの、

惟人はどうしてるの、

君がこんな目に遭ってるのに

なんで、
本当に何も知らせてないの、って




理央兄さんどうして?



私が助けを求める事、



それじゃあ理央兄さんが


まるで望んでるみたい、




わからないな、
君の頭は本当に理解出来ない

早く通報しなよ


それとも何、
本当に死にたいの


君はこのまま死んでしまってもいいの、って


確信した、


理央兄さんは

明らかに罰を望んでる、



目の前の現実だけが

真実ではないのかも知れない、



私の記憶にある理央兄さん

私の中の理央兄さんを信じた方がいいのかもしれない



こんな風にするのは

何か理由があるの?




血は繋がってないけど

唯一の肉親、


理央兄さんが私のこと
たとえどんな風に思っていたとしても、

私にとっては
理央兄さんは大切な家族、


出来るならやり直したい、



わかってもらえるように
ちゃんと話しが出来るように、


とにかく一度
頑張ってみようかと、思った


不思議だけど
なんだか純粋にそう思えたの


泣くばかりじゃいけない


守ってもらうばかりじゃ駄目なの
いつまでも助けを待つだけじゃ生きていけない、



あの頃とは違う、

私は強くなった


もっと強くなるの



ちゃんとこの先も生きていく為に

私はもっともっと
強くならなきゃいけない、



だから

今日から頑張る





恐怖と戦う


負けちゃだめ、

2019/01/02(Wed) 19:47 

◆no title 

「貴秋を国外へ飛ばしたのは僕だよ」



「ずっと邪魔だった、昔から

君は僕の物だったのに
あれの所為で君を手放す羽目になった」


「あれこそ下らない色恋で身を滅ぼしたよね」


「知らないんだ?
あれはあれなりに君のこと
ちゃんと愛してたのに」


「可哀想な貴秋」


「君を守っていたのは惟人だけじゃない
僕から早々に君を取り上げたのは貴秋だよ」


「皆んなの澪だったのに
独占欲か庇護欲か知らないけど

あのまま彼処に置いていたら
君が死んでしまうと思ったのかな、


とにかくあれの所為で
君は葵の家を出て

貴秋の監視が行き届く場所で、一人暮らすようになって

僕は君で遊ぶ事が出来なくなった」


「あれが君の父、
父さんの直属の上司の息子だった所為で

父さんは何でも貴秋の言いなりだった

君はずっと
守られていたんだよ」


「……何、
また泣くの、

ずっと誤解してた?」


「だから馬鹿だって言ってるの

君はずっと貴秋を
主悪の根源だって思ってたんだもんね」



「だからあの惟人すら
頑なに黙ってたんだよ

自分以外に心開いて欲しくないから、

全てを知ったら優しい君は貴秋に絆されて
きっと愛してしまうから」




「君を一番に救ったのは惟人じゃない」



「君が大嫌いだった貴秋だよ」











謝りたい、貴秋に



私は何も知らない

私は私のこと


何も知らなかった

2018/12/30(Sun) 04:25 

◆no title 

誰が信じてくれるというの

こんな嘘みたいな事

こんな馬鹿げた作り話みたいな話


酷い妄想
いっそ願望?

私自身
現実に起こってる事だなんて
思いもしなかった、


本当に夢なら良かったのに






今は目の前が真っ暗

こんな事になるなんて思わなかった

2018/12/28(Fri) 14:33 

◆no title 

このままもう会えない

そんな気がしてる

2018/12/26(Wed) 17:51 

◆no title 

兄さんに電話したの


助けて欲しくて、



でも出ないまま
何度目かのコールが続いたから
諦めて切った


切ってすぐに折り返し電話があって


澪、ごめん直ぐ出れなくて


どうしたの

何かあったの、澪、って、


親が子供に話し掛けるみたいに
優しい優しい声




珍しいね
澪が自分から掛けてくるなんて、って


電話なんて
殆ど自分から掛けたことない

メールも、

誰かに自分から連絡する事なんてないの

沙月ちゃん絢斗さん以外



兄さん
私が話しやすいように

私の心解きほぐすみたいに



俺は今は京都の祇園に来てるよ、って


さっき芸妓かな、
本物の舞妓さん達に会ったよ

茶屋で取引先の人に
もてなしてもらったんだ

最近は舞妓体験かな
昨日も街でよく見かけたけれど

本物はやはり
観光客や体験にはない風格があって
素晴らしかったよ

あれこそ日本が誇るプリンセスだね
澪に見せたかった、って


他愛もない話を広げて和ませてくれるの



兄さん、って
呼び掛けたら兄さん笑って

なあに

どうしたの


寂しくなったの、澪
可愛い


俺に会いたくなった?、って



どこまでも優しい優しい兄さんに

涙がぼろぼろ溢れ出た



心の中ぐちゃぐちゃで

声が出せなくて

返事出来ないでいたら


澪、

ねえ澪、

ねえどうしたの、本当に、って

何かあったの
なにがあったの、


澪、

泣いてるの、って

声にだんだん
動揺と心配の気配が滲み始めて



縋るような気持ちで勢いのまま

あのね兄さん、って

口にした瞬間、


兄さんの電話口

遠くの
奥の方から


惟人、後に出来ないの

いい加減にしないと
もう随分お待ちかねよ、って



優紀子さんの声





息が止まった



一瞬の沈黙の後



ごめんね、澪

大丈夫
何でもないよ


それでどうしたの

平気だから
澪、聞かせて、って


何もなかったみたいに
私が気にしないように

兄さんまた優しく語り掛けてくれて
穏やかにゆっくり続きを促してくれたけど


仕事の真っ最中だったなんて


既にもう繋がってから15分以上経ってる


お仕事の邪魔だけはしたくないのに





言えるわけない、



少しだけ

寂しくなっただけ、って言った


兄さんの声
聞きたかったの

プレゼント
ありがとう兄さん

直接お礼も言いたくて


ごめんなさい


お仕事中にごめんなさい、って



その後直ぐに切った


兄さん
何か言ってくれていたけど
もう少しも耳に入らなかった

申し訳なくて


どうして電話しちゃったんだろうって

お仕事の邪魔してしまったこと、許せなくて




言えない、

言えなかった



これ以上負担になってどうするの


お仕事全部キャンセルして

きっと兄さんは帰って来る

私の為だけに



どこまで足枷になるつもりなの私は


言ってどうするつもりだったの、?





兄さん




出張も

優紀子さんと一緒なの…、?


何日も泊まりの出張、
何週間も掛けて地方を回る出張、


兄さん

優紀子さんも同行してるの、?













全部がくるしい、


もういや

2018/12/26(Wed) 17:48 

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