くすんだみどり

□ご
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大変な事を仕出かした。

鬼男君と夕子ちゃんを小さくした時点で既に大変だったけど、さらに大変な事実がそこにあった。

「えんまだいおー!」
「ばかぁー!」

閻魔庁に入ると、二人が駆けてきて、私に抱きついた。私も抱き締めかえした。

「閻魔大王」

篁君が子供たちの裏に立っている。不安げ、というよりはどこか焦っているようだ。
その表情に向かって、言った。

「この子達の中に居るのは、鬼男君と夕子ちゃんじゃない…」

体内の苦味は、消えなかった。

「じゃあ…まさか…」
「うん。私が鬼男君を小さくする呪文を唱えたとき、夕子ちゃんは飛び込んだ。その二人の後ろで、天国をうろうろ歩き回っていた子供達、ゆうちゃんとおの君がいたんだ。多分、その二人が…」

大きな溜め息は、篁君ではない。聖徳太子のものだった。小野妹子はいないようだ。

「あ、聖徳太子!」
「え?」
「閻魔大王様…」

冠を伸ばしていただけに見えた聖徳太子は、意外な表情を見せた。

「全く!妹子はな、私には手厳しいが、他人に対する世話焼きに関しては右に立つものが居ないほどなんだぞ!」

篁君も、呆然としてはいるがしっかり聞いていた。

「あー!太子だー!」
「太子ーあのねぇー」

聖徳太子は笑いながら話を聞き、二人が外に遊びに行くまで目線を固定していた。

「その妹子が中でも一生懸命世話をしたんだ。何故か分かるか?」

篁君は知らないだろう。閻魔帳には書いてあった。

「親を、知らないんだよ」

その場に、亀裂が入るような音がした。

「親を…?」
「ん」
「親を知らないうえに、あんな小さい歳で亡くなったんですか…?」
「そうだよ。戦でね」

声はいつにもまして元気そうで、よく見てみれば、小野妹子もそこにいた。枯れ草で作った玉を三人で蹴っている。
篁君はじっと見つめていた。目を離すこともなく、目を合わすこともなく。

「時間は?」

聖徳太子は私を見た。笑ってはいないが、穏やかな眼だった。

「人間界の、二週間後の、月が沈む時まで」
「閻魔大王。何の時間ですか?」

私はゆっくり振り向き、口を開いた。

「ゆうちゃんとおの君が、輪廻転生するまでの時間だよ」

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