くすんだみどり
□さん
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閻魔庁を揺れ動かした事件から丸一日経った。まだその残り火は燃え尽きていないようだ。
それにしても、小野篁君は本当に凄い人間だった。とにかくそれしか言える事がない。てきぱきと働くし、一度教えればすぐに覚えてやりこなす。当たり前だが、私には到底出来そうにない。
「えんまだいおー」
「んー?どうしたのー?」
鬼男君はじっと一点を見ている。視線を辿ると、なるほど、篁君を見ていた。昨日の出来事を換算しなければ、鬼男君にとっての彼は初見だ。
「あのひとだぁれ?」
「小野篁君だよ」
「おのの?」
しばらく視線を外さなかったが、鬼男君は彼の方へ駆けていった。篁君は、急に現れた鬼男君にかなり驚いていた。
「鬼男君…どうしたの?」
冷静さを装い、篁君は鬼男君の前にしゃがみこんだ。鬼男君は彼をじっと見て、やがて首を傾げた。
「いもこ?」
篁君は唐突に出た先祖の名前にさらに驚いたが、もとはと言えば鬼男君は秘書だ。そう考えると、名前が出ても不思議ではない。
「いもこ、は僕のご先祖様だよ。僕じゃない」
鬼男君はさらに反対側に首を傾げた。そこへ、夕子ちゃんも駆けてくる。そして篁君に飛び付いた。
「いもこだー!」
私が感じた物と、篁君が感じた物はそっくり同じだったようだ。彼は私を見た。
「閻魔大王。夕子ちゃんはいつここへ?」
「夕子ちゃんは2週間以内だよ。小野妹子が来たのは、それから遥かに前だ」
普通に考えれば、夕子ちゃんは小野妹子を知らない。夕子ちゃんは判決をもらったにも関わらず閻魔庁に居座っているので、天国に行ったことがない。
「な、何で…」
「ねぇ夕子ちゃん。どうして夕子ちゃんは小野妹子を知ってるの?」
「んー?」
夕子ちゃんは眠いようで、篁君の肩でうとうとし始めていた。鬼男君も目がトロンとしている。
「篁君…」
「はい」
「もしかしたら私は、大変な事を仕出かしたかもしれないね」
篁君の表情に、厚みのない笑みが見えた。