くすんだみどり
□に
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「今日から閻魔様の秘書になります、小野篁です。以後宜しくお願い申し上げます。それで、閻魔様」
「んー?」
思わず空返事になってしまった。あわてて篁君に向き直る。
「はい、何ですか!」
「…私が思っていた閻魔様という方は、死者を"天国"、あるいは"地獄"に振り分ける偉大かつ威厳を持った方だとばかり思っていました」
「そうだけど?」
篁君はこっちを見ながら何か言いたそうな顔をした。
小野篁君はかの『小野妹子』の子孫で、彼の読めない漢文は無いと聴く、簡単に言ってしまえばエリートだった。
度きつい目は彼特有で、以前見た小野妹子とはかけ離れていた。
「えんまだいおー。これはー?」
「これは閻魔七つ道具だよ。これ着る?」
「閻魔様!!」
急に篁君が大声で怒鳴った。私もびっくりしたけれど、それ以上に鬼男君や夕子ちゃんが驚き、泣いてしまった。
「ごめんねぇ鬼男君、夕子ちゃん!」
「閻魔様ともあろう方が仕事も成さずに、何故子育て等なさっているのですか。それに、もともと鬼の秘書がいたのなら、何故僕はここに居るのですか?意味も状況も全く理解出来ません」
必死で彼らをなだめながらも、篁君に事情を話すと、結局彼は溜め息をついた。
「で、その小さな秘書様が元に戻るまでは僕があなたの秘書をせざるを得ない。そういう事なんですね?」
「まぁ…そうだけどさ、その嫌悪に満ちた顔やめてよ」
「閻魔様」
「はい」
泣き止んだ夕子ちゃんが篁君にまとわりつく。また怒鳴られるかな、とも思ったが、篁君は安らかな顔で夕子ちゃんを抱き上げた。
「僕にも家庭があります。ちょうどこれくらいの女の子なんです」
篁君は、その腕の中ではしゃぐ夕子ちゃんをしっかりと抱き締めた。胸が少し痛む。
「はやく戻れるようにしてください。もちろん、給料も出ますよね?」
あやしているうちに眠ってしまった鬼男君をちらと見、私は頷いた。
「分かった。最善は尽くすから。待っててね」