くすんだみどり

□いち
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「だから、それはお前が悪いんだろこの変態大王イカ!」

相変わらずの辛辣な口振りに怯えて肩をすくめると、目の前の彼は溜め息をついた。その様子を上目遣いで見上げる。お疲れみたいだ。褐色の顔に、更に黒いくまが目立つ。

「でも…鬼男君がただのコーヒー買ってきたのも十分悪くない?」
「とうとう僕の所為かよ!あーもうあったま来た…今日1日の仕事が終わらなかったら、七つ道具のセーラー服、全部燃やします」
「ちょ…そんな残酷な!」

まぁ、たしかに私が悪いっちゃあ悪かった。お疲れの鬼男君に無理に仕事をさせて、さらには『ビュー茶という名のコーヒー味のミルクティーを買ってきて』と頼んでしまった。鬼男君の言いたいことも、分からなくはない。
でも、セーラー服を燃やすっていうのはあまりに酷じゃないか!

「じゃあ大王。僕はこの資料を戻してきますから。仕事進めておいてください」

鬼の目にも涙っていうのは、あれ、絶対嘘だよね。

「閻魔様」

一人頭を抱えていると、夕子ちゃんが来た。夕子ちゃんは少し前に冥界に来た幽霊で、鬼男君が一目おいている女の子だ。今日も飼い猫のミーちゃんを抱え、裏口から顔を出した。

「お悩みですか?」
「夕子ちゃん…!」

まさに天使のようだ…いや、凄くぼろぼろの服を着ているんだけれど、味気ない表情とか、まさに天使…ではなさそう!

「聴いてよ夕子ちゃん…鬼男君が鬼なんだよ…」
「そうですね」
「ちょっとミスがあったくらいで、セーラー服全部燃やしますとか言うんだよ」
「ごもっともですね」
「ちょ…夕子ちゃん?」
「いや…ノリで…」

どうすればいい?もしかしたら夕子ちゃんも敵軍だ。こうなれば二人いっしょに…いや、ダメだ。私が寂しくなる。こうなれば…。

「大王イカ、ちゃんと仕事してましたか?」

鬼男君が入ってきた。すかさず、変身コンパクトを取り出す。

「結膜マヤコン結膜マヤコン、鬼男君よ私より弱くなれぇー!」

光が放たれ、驚く鬼男君の傍で煙があがる。瞬間、鬼男君の後ろで誰かが動いた気がした。私の横にいた夕子ちゃんも飛び込んだ。

「え!ちょ…夕子ちゃん!」

計算外だ。
私は煙がなくなっても、その場を直視出来なかった。失敗していたらどうしよう。

「えんまだいおーしゃま」
「えんまぁだいおー」

声が聞こえる。聞いたことはある声だけど、思い出せない。

「えんまだいおー」
「ばかー」
「だ、誰がバカだこのやろ…」

動きを止めてしまった。時間も止まった気がした。

そこにいたのは紛れもない鬼男君と夕子ちゃんその人。だけど、小さい。5歳くらい。

「えんまだいおーばかー」
「あほー」

だが、呆然とはしていられない。

「門番くーん!」
「何ですか閻魔様…閻魔様!!」
「驚いている暇はない。至急、臨時の秘書を雇ってくれたまえ」
「何偉そうにしてんだバカ閻魔様分かりました」

その日、閻魔庁は慌ただしく動き回り、死者たちは丸一日、その場から動かなかったらしい。

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