深海の姫君

□深海の秘密
1ページ/2ページ


side sinbad.


「ルリアっ!」

とっさに伸ばした手もむなしく、ルリアの体は暗い夜の海に飲み込まれていった。

徐々に激しくなる戦闘。
戦力的にはこちらに分があるとはいえ、ルリアを人質にとられている状況。
加えて、俺たちには話せない何かを抱えていた彼女。
それらを含めて考えれば、あれは一種の運命──あらかじめ、決められていた展開だったのかもしれない。


俺と八人将、加えて兵士たちもいる。
いくらルリアを人質にとられているとはいえ、戦力の差は明らか。
初めは強気だった相手もそれを痛感したのか、標的を俺からそばにいるルリアへと切り替えた。

「おい!」

ルリアに何をするつもりなのか。
そう続けるより早く、リーダーの男がルリアの体を船外へと押し出した。

「ルリアっ!」

とっさにその名を呼び手を伸ばす。
しかし、彼女は両手を縛られたまま。
俺の手を取ることはできず、俺の手も彼女に届かなかった。

前も後ろも、上下さえわからない暗闇の中、泳ぐこともできずにいるかもしれない。
このままでは、きっと───。
一瞬のうちに脳裏をよぎった最悪の想像に、俺は迷わず船のふちに足をかける。
ジャーファルがリーダーを拘束する様を、横目で確認することができた。

「シン!何を考えているのですか!?」
「ルリアを助けに行く!」
「それはっ、しかし…」
「俺はルリアを妃にする!この手で救い出してな」
「!?…必ず連れ帰ってくださいよ!」
「あぁ!」

仮にも今は戦闘中。
そんな中、一国の王が食客一人のために海へ飛び込む事なんて、あってはならないのかもしれない。
だが、俺にとって彼女は最早、食客の一人などではないのだ。
決して失いたくない、未来を共に歩みたいただ一人の女性。
一度は止めたジャーファルも、最後は俺の背中を押してくれた。
待っていてくれ、ルリア。
すぐに、俺が助けに行く。

船上の戦闘をジャーファルたちに任せ、暗い海へ飛び込んだ。


海の中は暗く静まり返っていた。
ほとんど利かない視界の中、ルリアの姿を探して目を走らせる。
もう少し潜ってみるかと下へ向きを変えた瞬間。

…何だ、この光は…。
暗い海の中、宝石のように青く輝く光がそこにはあった。
その淡い光はほとんど一瞬のことで、すぐに向こうにあるものが見えてくる。
あまり目は効かないが、先程の光のおかげか少しだけ見えたそれは、長い髪と魚のような尾びれを伴っていた。
そしてその両手が、後ろ手に拘束されているのを見た。
頭の中で飛び回る疑問符は数知れず。
しかし、水中でその姿をとらえた瞬間から、俺の中にはそれがルリアだという確信があった。

急いで影の元へ向かい、その体を抱えて海面を目指した。


二人分の水音を立て、俺たちは再び海上へと戻ってきた。
己の腕に抱えた人物はこちらに背を向けており、その顔を見ることはできない。
その代わりか、海上へ出たために周囲に焚かれている炎によって照らされた、長い蒼の髪が視界に広がっている。
なんて綺麗なんだろうか。
それを見て、俺の確信はより強いものへと変化した。

船の上では、ジャーファルたちによって既に決着がつこうとしていた。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ