深海の姫君

□伝えたい想い
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side sinbad.


「ルリア、」
『シン?』
「今良いか?」
『どうぞ、』

ジャーファルに、俺から話すと伝えたその日。
午後になってルリアの元へ向かった。

「ルリア、君に話さなければならないことがある」
『私に…?』

さてどこから話すべきかと考える。
とりあえず、国中に出回っている噂からか。
俺の気持ちを伝えるのが先か。

「今、王宮の前に国民が来ているのを知っているか?」
『国民が王宮に…』
「あぁ。ルリア、君に会いたいと言ってね」
『…え、私?』

まぁ、そういう反応をするだろうな。
首を傾げるルリアに、慎重に噂を伝える。

「今シンドリアでは、二つの噂が広まっている。一つは、この国の王妃が現れたということ」
『…おう、ひ?』
「そしてもう一つは、その王妃が人魚であるということ」
『!』

一つ目の噂に、彼女の顔が悲しげに揺れる。
そして二つ目の噂に、明らかな動揺が現れた。
俺を見つめる瞳は揺らぎ、その両手はかすかに震えている。
ルリアの心が少しでも落ち着くよう、俺は彼女の手を自分のそれで包んだ。

「…ルリア、聞いてくれ。国民たちは、これらの噂を聞いて王宮へ来た。だが、それは君をどうこうするためじゃない」
『…でも、…』
「君は、この国は暖かいと言ってくれただろう?俺もそう思う。…この国の民は、君のことを歓迎しているんだ」
『…うそ、そんなことって…』
「うそなんかじゃないさ。八人将も、国民も、もちろん俺も。この国の全てが、君という存在を望んでいるんだ」

ルリアの瞳が困惑と驚きに揺れる。
これが真実であることが彼女に伝わるようにと、俺はその手をより強く包んだ。
そして、彼女を真っ直ぐに見つめ返す。

『…本当に、私を…?』
「あぁ、もちろん」
『そんな風に言ってもらったの、はじめて…』

再度確認する彼女に強く返せば、その瞳に今度は涙をためて、そして笑みを見せてくれた。
あぁ、やっぱり笑顔の方が似合うな。
この笑顔を守り抜くため、俺にはもう一つ、伝えなければならないことがある。

「…ここからが本題なんだが、」
『まだ何か?』
「あぁ。さっきの俺の話、覚えてるか?」
『?…王妃が現れて、その王妃が人魚で…。シン、王妃って…』

思い出してくれたところで、包んでいた両手を放しその場に片膝をつく。
そしてルリアの手を片方取り、下からしっかりとその目を見つめた。

『…シン?』
「ルリア、」
『…はい、』

行き成りしゃがみ込んだ俺に、彼女は困惑しているようだ。
だが、それに構わず続ける。

「…俺は、君が好きだ」
『!』
「俺と一緒になるということは、この国の王妃になるということ。きっと、苦労も多いだろう。だが、」
『………』
「俺は、君といたい。君とこの国を作っていきたい。…どうか俺の妃になってくれないか、ルリア・ナイトレイ姫」

重ねた手の甲にそっと口づけを落とす。
そのままルリアを見上げれば、その瞳からは次々に涙があふれていた。

『…っ、シン…』
「なんだ?」
『シンっ!』
「おっと、」

急に飛びついてきたルリアを支えれば、更にあふれ出る涙。
片手で腰を抱き、片手で後頭部をなでながら、彼女の言葉を待つ。

『…はい、っ…』

それは消え入りそうな声だったが、確かに俺の耳に届いた。
肯定の返事に、思わず強く抱きしめる。

「…愛している、ルリア」
『…私も、シンが好き』
「あぁ…」

そのまま自然と重なる唇に、このままルリアを放したくないなどと考えてしまう。
国民への顔合わせは、もう少し後でも良いだろうか。





to be continued... (back)

 

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