深海の姫君

□昔々あるところに
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side sinbad.


「シン!ご無事だったのですね」
「あぁ。ジャーファル、そっちはどうだ?」
「全員拘束しました。負傷者は数名いますが、皆軽傷です」
「そうか、良かった」

海中から出ながら、寄ってきたジャーファルと言葉を交わす。
その間も、我らが政務官の視線は俺の腕の中に注がれている。

「…シン、彼女は?」

ジャーファルもこの蒼い髪の少女がルリアだということはわかっているようで、純粋に何があったのかと問うてくる。
ルリアの下半身を未だ海中に留めたまま、俺は何か布を持ってきてくれるよう頼んだ。

先程海中で見たものが幻ではないとしたら、きっとそれが、ルリアの俺たちへの秘密なのだろう。
実際に見た俺でも未だに信じられないのだから、この多くの人間がいる場所で見せるというのはあまりよくない。
ルリアもそれを望んでいないはずだ。

「布、ですか?」
「あぁ。あまり、大勢にみられるわけにはいかなくてな」
「はぁ…わかりました」

いまいち納得はいっていないようだったが、彼はすぐに人一人覆えるようなサイズの布を持ってきてくれた。
俺はその布でルリアの全身を──特に下半身がしっかり隠れるようにして、未だ目の合わない彼女の体を抱き上げた。
先ずは王宮に連れて帰って、話をするならそれからだろう。

王宮へと向かう間もルリアと目が合うことはなく、彼女が何かを言うこともなかった。
ただ大人しく、俺に運ばれている。
この度の戦いの報告と、ルリアの姿について話すため、俺はルリアを抱えたまま八人将と共に先程までいた会議室へ入った。
深夜、加えて濡れている者もいる。
本格的な報告は明日──既に今日だが──に回し、敵の様子、被害状況だけを簡潔にジャーファルから伝えられる。

「私からは以上です。…シン、」

報告を終えたジャーファルと、八人将の目が俺の隣に座っているルリアに向けられている。

「あぁ。…一応確認するが、ルリア、なんだな?」
『………』
「…ルリア?」

相変わらず視線の合わないルリアの顔を、覗き込むように聞く。

『…確認、なのね』

ルリアから返ってきたのは、諦めと自嘲を含んだ声色のそれ。

「君が俺たちと距離を置いていたのは、その姿が理由なんだろう?」
『気づかれてたのね』
「だてに七海の覇王と呼ばれてないさ」

それに、相手がルリアなら、どんな些細な変化だって気づいて見せる。
どんな姿になっていても見つけて見せる。

「その姿のこと、教えてくれないか?」
『…教えて、そうしたら貴方たちは私をどうするつもり?』
「どうもしないさ。俺が、個人的にルリアのことを知りたいんだ」

その瞳に映る疑いと怯えを和らげるように、俺は努めて優しく返した。
実際、それが俺の本心。
ただ純粋に、好きな相手のことを知りたいだけなのだから。





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