深海の姫君
□守るべきもの
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side heroine.
「王よ!どこにおられますか、王よ!」
突然、城の中が騒がしくなった。
先程までシンとの間に流れていた、何とも言えない空気が掻き消される。
少しだけ息が詰まる思いをしていただけに私としては好都合だったが、シンドリアとしては不都合なことが起きたようだった。
「…ルリア、悪いがこの話はまた後で。俺はここだ!」
私に一言そう告げると、シンは慌しく部屋を出て行った。
それではまるで、またいつか、この話題を出すことがあるみたいじゃないか。
シンは、何を思ってそれを言ったのだろう。
廊下からだけでなく、窓の向こうからも喧騒が聞こえるようになってきた。
これは明らかに、ただ事ではない。
先程のシンとのやりとり云々は別として、私もシンドリアの食客としてできることを探そう。
ローブを羽織り、杖を持って部屋を出る。
通路を行き交う人の中、一人の文官を呼び止めて声をかけた。
『何があったんですか?』
「敵襲です!島の沖に敵対国の船が来て、国に向けて発砲してきました!」
『この国を襲撃なんて、そんなこと、』
シンと、八人将がいるこの国を。
シンは7つの海を渡り、7つの迷宮を攻略した、人呼んで七海の覇王。
その眷属たる八人将も、一人一人が一軍を率いる将ほどの強さを持っている。
そんな彼らがいるシンドリアに、わざわざ真っ向から攻撃を仕掛けるなんて。
いくら今が夜中でも、戦力の差がありすぎる。
『シンは、今どこに、』
「王なら、八人将の方々と共に会議室におられるはずです」
『ありがとう、呼び止めてごめんなさい』
「いえ、私はこれで」
文官は再びかけていく。
私も何か力になれれば。
そう杖を握りしめ、シンと八人将がいるだろう会議室へとかけた。
会議室ではシン、ジャーファルさんを中心に、作戦会議が行われているようだった。
私に気づき、シンが微笑みかけてくれる。
「ルリア、君も来てくれたのか、」
『何があったのか気になって、』
「ありがとう」
「それで、どうしますか?」
「そうだな…」
私に向けていた顔から一転、真剣な、それでいて苛立ち、苦しそうな表情になる。
八人将を見れば、王の判断を待っているように見えた。