深海の姫君

□好き。だから、…
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side sinbad.


数ヶ月前、この国で暮らすことになった少女・ルリア。
城の者や町の人々と楽しそうに過ごす彼女は、しかし、何か隠している節がある。

「この国は慣れたかい?」

彼女の部屋を訪れれば、窓辺で空を見上げていた。

『…シン、』
「やぁ、ルリア。夜分に失礼するよ」

こんな時間に女性の部屋へ入るなんて、というジャーファルの声が聞こえてきそうだ。
文句の一つでも返ってくるかと思えば、予想外の答えが。

『もう大分経ちますから。…ここは暖かい国ね』

そう言ったルリアの声は、優しさや嬉しさに加えて、どこか寂しさや悲しさも含んでいた。
確かにここは、南海の島国。
だがルリアがこの国を暖かいと称したのは、それだけが理由ではないのだろう。

そう、俺が知りたいのは、彼女がこんな表情をする理由。

「暖かい?」
『はい。…国民の心が、暖かく、優しい。良い国ですね』
「ははっ、そうか。そう言ってもらえると嬉しいよ」

暖かいのは、国民の心。
この国の王として、他国の人間にそう言われるのは素直に嬉しい。

確かにそうかもしれないと、そうであってほしいと、俺も思う。
世界では、戦や貧困に苦しむ人が多くいる。
そんな人々を救い、より多くの人が互いを理解し、尊重し、共存できる未来。
その一部でも、この国で実現できているのなら。

『私に何か用事でも?』

そこでルリアは、俺が今ここへ来た理由を問うてきた。
俺がいつまでも切り出さなかったからか。

「…、」
『シン?』
「…あぁ、話だったな。ルリア、」

名を呼んだところで一旦止めて、そして彼女のピンクの瞳を真っ直ぐ見つめる。
俺のこの思いが、届くようにと。

「…君が隠している何かを、俺に教えてはくれないか」
『!』

ルリアの瞳が揺れた。
それでも決して、視線は逸らさない。
俺は、君の力になりたい。
初めて会った時に感じたこの思いは、嘘偽りなどではないのだから。

『何の話です?』

ルリアは長い間考え込んでいたようだったが、しかし、俺の心中の叫びは届かなかった。
言いながら俺を見るルリアの表情は、諦めと、恐怖と、ほんの少しの俺への懐疑心。

ドクンと、自分でも驚くほど心臓が脈打つのが聞こえた。
胸が締め付けられるように痛い。
白くなっていく頭の中、考えるのはルリアのことだけ。
俺は本当に、君の力になりたいと思っているのに。
どうしてそれが伝わらないのだろう。

そうして気づく、俺の中の確かな感情に。
本当は、ずっと前から気づかないフリをしていた。

ルリアの力になりたいと思ったのも。
秘密を打ち明けてほしいと思ったのも。
こんなにも苦しくなるのも。

ただ、君を好きだと思うからなんだと。





to be continued... (back)

 

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