深海の姫君
□国のカタチ
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side other.
「これなんか似合うんじゃない?」
そう言って、笑顔のピスティはルリアにブレスレットを差し出した。
ヤムライハと手合わせをした翌日。
ルリアはピスティに連れられ、中央市にやってきていた。
魔法界で生きてきたルリアにとって、食べ物や装飾品、その他、生活に使う様々な品。
それらが露店で売られている光景そのものが、とても珍しいものに映った。
見たことのないものが幾つもあり、ルリアはしきりに辺りに視線を巡らせる。
そんな中、ピスティがルリアに差し出したブレスレット。
白い貝殻で作られたそれは、この国の雰囲気に合っていて、同時に、ルリアの中のもう一つの故郷に対する思いを呼び起こさせた。
『綺麗…』
気づけば、無意識のうちにそう言っていた。
ピスティがその言葉に笑みを深める。
「ね、可愛いよね」
『うん。買っていこうかな』
実はここへ来る前、シンドバッドに会ったルリアは、彼からお金を預かっていた。
曰く、何か気になるものがあれば買ってくると良い、とのこと。
小遣いをもらう子供のようで、そんな扱いに最初は膨れたルリアだったが、自分は共に行けないからせめて、と言われれば断ることはできなかった。
少なからず、ルリアはシンドバッドに恩を感じているのだから。
ブレスレットを購入し、中央市をもう少し見て回った後、二人は王宮へ戻った。
そこで、シャルルカンとマスルールと遭遇する。
「ルリアか。どっか出かけてたのか?」
『シャル。うん、ピスティに、中央市を案内してもらったの』
ルリアがそう言って手首につけたブレスレットを見せると、マスルールがスンと鼻をならした。
「合ってると思いますよ」
『マスルール?』
「どういうこと?確かに、ルリアに似合ってると思うけど、」
ルリアとピスティが揃って首を傾げると、マスルールは再び口を開く。
「ルリアさんからは、綺麗な海の匂いがするんスよ」
『!…、』
マスルールにとってはそれは、事実をそのまま告げただけだったのだろう。
しかし、ルリアにとってそれは、大きな意味を持っている。
もちろん、それを知るのは現時点ではルリア本人だけだが。
『ありがとう、マスルール』
「?」
シンドバッドからこの国に来るよう誘われた時に感じたものと同じ気持ちを、ルリアは再び感じていた。
この国は、私を受け入れてくれるかもしれない。
温かな国民性を感じながら、ルリアはその手に纏う貝殻を見つめた。
to be continued... (back)