深海の姫君

□"魔女"の少女
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side Jafar.


第49迷宮、クローセルをシンが攻略した。
いつものように光に乗って迷宮を出た後、その場に一人足りなかった。
迷宮から出た後どこに飛ばされるかは未知数で、全員バラバラになることも珍しくない。
それを、これだけの人数が揃っていることは幸運だろう。

「…シンがいませんね」
「あれ?ほんとだ」
「…向こう、っすかね…」

ピスティがキョロキョロと辺りを見回すと、マスルールが鼻を鳴らして少し遠くの方を見た。
もっとも、シンの匂いはほかとの区別がつきにくいらしいが。
とにかく、そちらへ行ってみるしかないようだ。


「お、いたいた王サマ」

シャルルカンが前方を見ながら言う。
マスルールが言った方へ向かうと、しばらくして、確かに見慣れた紫色が見えた。
ただし、

「全く、どうして一人だけこんな方にいるんだか…」
「もう一人いますね」

もう一人…?
マスルールの言葉によく見れば、シンの体に隠れて見えた小さな体。
この短時間で、一体何があったのか。
それを問いただそうと近づけば、辺りを見回したシンが私に気づいた。

「シン!いったい何が…」

"あったんですか?"と、そう続くはずだった言葉を続けることができなかった。
なぜなら、シンに抱かれるようにして、その腕の中に長い髪の少女がいたから。
迷宮を出る時までは、確かにそんな少女はいなかったはずなのに…。
脳裏に過るのは、目の前の王のせいで、これまで幾度となく経験してきた悪い予感。

「おぉ、ジャーファル!やっぱり先に出てたんだな」

こちらの思いなんて知りもしない我らが王は、爽やかな笑顔を私に向けてくる。
"おぉ、ジャーファル!"じゃねぇよ。

「いったい今度は何やらかしたんだ!」
「じ、ジャーファル君…?何か勘違いしてないか?」
「何の話です?…さぁ、貴女はこちらへ」

背中に回っていたシンの腕を放し、少女をシンから引き離す。
後ろにいたピスティやヤムライハに任せ、私はシンへ向き直った。

「…で?彼女は誰なんです?」
「ん?あぁ、迷宮の中で会ったんだ」
「迷宮で?」
「そうだ。…そう言えば、まだ名前を聞いてなかったな」

…この王は、名前も知らない少女にあんなことをしていたのか。
一気に目の前が真っ暗になっていく気がした。





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