深海の姫君

□何が為
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side sinbad.


「迷宮は知っているだろう?」
『…いいえ、』

今自分がどこにいるのかを知らないならともかく、"迷宮"というもの自体に首を傾げる少女に、さてどうしたものかと考える。
しかし、今最も重要なのは、一刻も早くこの迷宮を出ることだ。
誰かが攻略した迷宮は姿を消す。
この迷宮も例外ではなく、俺が攻略したことで間もなく消滅するだろう。

「とりあえずここから出よう。話はそれからだ」
『?…はい』

状況はあまり理解していないようだったが、彼女は俺の差し出した手を取って立ち上がった。
その時、今日二度目の異変が俺を襲う。
光に包まれるその感覚は、今までに幾度となく経験した、迷宮から出る時のそれ。
この空間に迷い込んだ時の二の舞にならないように、俺は少女の手を引いて、その体を己の腕の中に閉じ込めた。


次に気づいた場所は迷宮の外だった。

「大丈夫か?」
『…はい。ここは…?』

少女に声をかけながら、腕に込めていた力を少し緩める。
彼女は俺の腕の中から、物珍しそうに辺りを見回していた。
俺を周りを見回し、そうして、向こうに見えたのは見慣れた緑色のクーフィーヤ。

「シン!いったい何が…」
「おぉ、ジャーファル!やっぱり先に出てたんだな」

始めは大きかったジャーファルの声が、途中で不自然に途切れた。
しかし、それを気にすることなく声をかける。
次第にジャーファルの体が震え始め、そして、

「いったい今度は何やらかしたんだ!」

俺は言われのない説教を受ける羽目になった。
ジャーファルが素早く少女を俺から引き離し、ヤムライハとピスティに渡す。
二人から話しかけられる少女を横目に、俺は一人、ジャーファルと向き合うこととなったわけだ。

「…で?彼女は誰なんです?」
「ん?あぁ、迷宮の中で会ったんだ」

あの場所には特に何もなく、彼女と触れた途端に外へ出ることができた。
まるで、彼女と出会うためだけに作られた場所かのように。

「迷宮で?」
「そうだ。…そう言えば、まだ名前を聞いてなかったな」

まずは名前を聞いて。
そして、彼女がどこの人間なのか、どうしてあの場にいたのか、色々と聞く必要がある。

渦中の少女はと言えば、なぜかヤムライハのことを目を見開いて見つめていた。





to be continued... (back)

 

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