深海の姫君

□二つの噂
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「大賛成のようですよ」

曰く、我らがシンドバッド王が、王妃にと望む女性がいるらしい。
彼女は昨晩の戦いの折、自分たちやこの国の為、自ら人質となった。
長い髪を持つ美しい女性で、魔導士でもあるらしい。
あのヤムライハ様にも勝ったと聞く。
そんな方が王妃様となられたら、どれほど素晴らしいことだろうかと。

「それは嬉しい限りだな」
「はい。…ただ、話はこれだけではないのです」
「まだあるのか?」
「はい」

噂がここでとどまれば良かったのだが、もう一つの話も国中に広まっていた。

「実は、貴方がルリアを海から引き上げる時…」
「まさか、見られていたのか?」
「…はい、そのようです」

そう、問題はこの話。
シンは海中からルリアと共に出てきた。
その時、足から尾びれへと変化した彼女の下半身を隠すため私に布を持って来させたのだが、彼女に布をかけるまでの間に見てしまった者がいたのだ。
彼女が持つ、魚の尾びれを。
そうして広まったもう一つの噂。

曰く、その王妃になるという女性の下半身は魚のようであった。
人の体に魚の尾びれ──彼女は人魚である。
人魚がシンドリアの王妃になるのだと。

「…この話も、国民たちに広まっているのか」
「…はい。二つの噂は同時に」
「そうか…」

ルリアは、自分が人魚であることを知られるのを恐れていた。
それは彼女の母や彼女自身が、幼少期から人間に狙われ続けた過去が関係している。
昨日ようやく私たちに話してくれたことを、既に国民が知っているとなれば彼女がどう思うか。

「ただ…シン、」
「なんだ」
「こちらの話にも、国民たちの反応は良好なものでした」
「何?」

そうなのだ。
王が見初めた女性が人魚であると知っても、国民たちは嫌悪を示さなかった。
むしろ、人魚である彼女を妃にするなんて流石我らが王だと言う。

「…国民たちに救われたな」
「はい、本当に」

この国の民は、本当に暖かい。

「これらの話を聞きつけて、国民たちが王宮の前に集まりだしています。皆、ルリアに一目会いたいと言っているようです」
「そうか…」

国民の反応は問題なかった。
後は、彼らの態度をルリアが受け入れられるか否か。
おそらく、今までとは180度違う態度、困惑することは間違いない。

現在、彼女は自分の部屋にいる。
王宮にいる人間にも彼女の噂を耳にしている者はいるが、外のことは伝えないよう連絡済みだ。
後はいつ、彼女に伝えるか。

「ルリアには俺から話そう」
「シン、」
「どのみち、伝えることがあるからな」
「…そうですね」

異世界から来た不思議な少女。
彼女は魔法使いで、人魚で、この国を思ってくれる女性だった。
そんな彼女が王妃となりシンの隣に並ぶ日も、そう遠くはないだろう。





to be continued... (back)

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