深海の姫君
□二つの噂
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side jafar.
「シン様、」
「ジャーファルか、どうした」
「ルリアのことで、少しお話が…」
「あぁ、わかった」
私たちに何かを隠していた少女──ルリアの秘密を知った翌日、私はシンの元を訪れた。
無論毎日来ている場所だが、今日の訪問はそういう意味ではなく、国民の間で出回っている噂について話すため。
まずは王の意向を確認する必要があるだろうと、人払いをして二人きりになったところで話を切り出す。
「シン、昨日言ったことは確かですか?」
「昨日?どれのことだ?」
「…彼女を、貴方の妃にするという話です」
「あぁ、もちろんだ。お前は反対なのか?」
「いいえ。彼女なら、良い王妃となるでしょう」
そう、自分のことよりも、この国とこの国の民のことを考えてくれる彼女なら。
シンと共に、このシンドリアをより良い国に変えてくれるだろう。
加えて、彼女の持つ異世界の知識と魔法は、この国の発展に大きく貢献してくれるだろう。
私の問いへと返されたシンの言葉に迷いなどなく、その思いの強さを思わされた。
シンのルリアを見る目が他とは違うことには気づいていたが、本当にこんな日がやってくるとは。
それはさておき、今問題なのは、国中に広がりつつある噂の方である。
「今、国中で広まりつつある噂はご存知ですか?」
「国中で?いや…」
「私も今朝聞いたばかり…というか、その噂が広まり始めたのも昨日くらいからのようなのですが、」
そう、これは、一昨日の夜──あの戦いの後からささやかれ始めたもの。
それが、今日の朝には、ほとんどの国民の知るところとなっている。
その拡散の速さは最早異常なほどだ。
「?あぁ、」
「貴方がルリアを妃にするといったことを、聞いていた者がいたようです。最も、船上であれだけ声を張っていましたから、当然と言えば当然ですが…」
「あー…そうだな」
「とにかく、このことを家族や友人に話した者がいるらしいのです。おかげで、王様が妃を決めたと国中大騒ぎですよ」
シンももう20代半ば。
一国の王であるならば、王妃はもちろん、側室の一人や二人いてもおかしくない歳だ。
それどころか、子供がいたとしても驚かないだろう。
「国民たちの反応はどちらだ?」
「はい?」
「俺がルリアを妃にすることに、賛成しているのか?反対しているのか?」
やはり、気になるのはそこだろう。
私もこの噂を初めて耳にしたとき、まずそれを確認したのだから。