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□揺れる髪
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後ろからひゅう、と吹いた風にきゃ、と声を漏らした彼女を見て気付いた。



[01] ゆれる


いつものように、ファランの地獄の特訓(という名のダンス練習)の合間の休憩。
昼飯の調達も兼ねてと町へ繰り出したキリとエルーは、久々の穏やかな雰囲気に心が洗われるようだった。
いつ命を狙われるかわからない不安。
死んでもおかしくない刺客の強襲。
それらがない今を、できるだけ堪能しておきたかったのだ。

露店を見たり、自然に触れたり。
その間ずっと繋いだままのエルーの手は相変わらず細く、キリはいつもながら心配になる。

「アンタ、ちゃんと食ってんの?」

その疑問を、さらにエルーは疑問に思ったようで、頭上にハテナを浮かべた。

「食べてるじゃないですか?キリさん、いつも見てるでしょう?」

いや確かに四六時中一緒だから見てるけれど!とキリは心中ごちる。
わかってないのだ。
このド天然の無自覚で鈍感さんは。
食べていると云っても、その量はキリより遥かに少ない。年頃の子はそれでももっと食べるだろう。(スイは例外だ。あれは食いすぎといってもいい)
もう少し食べさせるよう努力したほうがいい。
そのため、本人にも自覚を促したほうがいいかと、キリが口を開いたときだった。

「あのなー…っと、」
「きゃ、」

後ろから、舞いあげるような風がキリとエルーの間を駆け抜ける。
そこまで強くはないものの、とっさに砂埃が目に入らぬよう覆った腕からちら、とエルーの髪が見えた。

(あ、)

淡い、空色の髪が。
風に呼応するように、さわさわと揺れている。

(触りたい)

乱れた髪を手櫛で整えているエルーの横顔は、どきりとするほどにきれいだった。
その横顔にも、触れたいと。
キリは空いた右手をそろりと伸ばしかけてー…。

「ふわぁ、髪が乱れちゃいましたね…。…? キリさん?」

ぴた、とそれは空中で止まる。
こちらを向いた彼女は、もういつものあどけない少女だった。

「どうしました?私の顔、何か付いてます?」

こてんと首を傾げる仕草につられて、また水色の髪が揺れる。
キリが伸ばした手はそのまま重力に従って元の位置、体の横に収まった。

「や、なんでもないよ」

なんでもないわけが、なかったけれど。
だけどエルーはそれで納得したようで、ご飯買って帰りましょうと少し前に見える食料品店へ、キリの手を引いた。
相変わらず、その手首は細い。
気付かなかっただけで、歩くたびにその髪の毛もふわりと揺れている。
それがまた、キリを気付かせる。

(やばいね、俺。重症だ)

彼女は、そう。
『女の子』だった。




おしまい。



触れて、キスして、抱きしめて、愛してると言いたくなるほど女の子。
きりくんはむっつりです。エルーの無自覚可愛いよなあって思いますあんな子現実にいたら速効悪いお兄さん達につかまると思います。助けてきりくん!ファラエルもかきたいきょうこのごろ



お題拝借>>あなぐら

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