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□君が神様
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いわゆる、三次元で言うところの神様などと僕には信じる価値もないし信じたところで何かが起こるわけでもないし。
なぜ盲信したかのように、人はそれにとりすがろうとするのだろうか。

というようなことをマスターに話したら、「お前はロマンが分かってねえな」と鼻で笑われた。
じゃあマスターは神様を信じているのかと尋ねると、「いたらいいなとは思っちゃいるがどうかな」と曖昧に笑うだけだった。

やっぱり人間であるマスターにも信じられないものを、ただのプログラムである僕に理解しろと言うほうが間違ってるのではないか。
そもそも、僕らにとって神様は裁量一つで何でも決めてしまうマスターに他ならないのではないだろうか。
そう思うと、三次元の神を僕が信じるか否かなど全く意味のない問いかけではある。
まあ、三次元の世界へ僕が行ける日が来るのなら話は別だ。(ねんどろいどではなく、こうしてちゃんと自我も魂も持った状態で、だ)

「ああ本当に変なことを考えるのね」

親友で姉さんはそう云ってワンカップをぐいとあおった。
ちなみにこのワンカップはマスターが記号化して送ってくれたものを、僕らが再構築してそう見せているだけのまがい物。
別に空腹感とかも感じないけれど、そうすることで人間らしくなれればいいと、マスターの判断だ。
そして姉さんであるメイコは、お酒が大好物、というわけだ。僕はアイスが好きだけど。

「変かな」
「変よ」
「めーちゃんは、神様って」
「いるわ。信じてる。」
「マスターを?」

ぺり、とアイスを包む上ブタを慎重にはがす。今日はグリーンティだ。

「マスターもだけど、マスターの世界にいる神様もよ」

二つ、三つとハイスペースでカップを空けていく姉さんに、胃を壊すよと注意すると鉄の胃袋の持ち主に向かってなんてことを!とか何とか云われた。

「だって、あっちの世界に神がいなければ、マスターは生まれてこなかったかもしれない」

生き物の生死を決めるのは、神様なのだとどこだかの宗教的データベースで見かけた。
きっと、姉さんもそれを知っているのだろう。

「そうしなかったら、私はマスターと出会っていないかもしれない。もちろん、あんたとも」

いつもながら饒舌な姉さんの言葉をじっと聞いていると、そうかな、そうかも。と思えてくる。
そんなに歳は変わらないはずだけど、姉さんの言葉には重みがあると思う。
これが年長者の貫録ってやつか。

「ちょっとカイトぉ!!?あんたいますっごく失礼なこと考えたでしょ!!!」

ぎろりと睨まれて、違う違うと胸の前で手を振っても、そうやって隠すところが怪しい!などといちゃもんをつけられて、朝まで絡み酒に付き合わされる羽目になった。


軽く酔いの残る頭でマスターに挨拶をすると(姉さんはケロリとしていた。ホントに鉄の胃袋なのか)、マスターは苦笑して僕の頭をなでた。拍子に頭がぐわんぐわんする。
2分ほどそうしていたマスター(絶対楽しんでた)は、ようやく「そうそう」とわざとらしく口を開く。

「今日から、兄弟が増えるぞ」

急な言葉に、僕と姉さんは「はあ?」と見事にユニゾンした。
酔いも吹っ飛んだ。


「大丈夫、きっとお前ら気に入るよ」

マスターがミク、と(多分女の子の)名前を呼ぶと、遠慮がちにプログラムされた構築体が姿を現す。

淡い青緑の長いツインテール、ぱちりぱちりと音のしそうなほど長いまつげに縁取られた髪と同じ色をした大きな瞳
掴んだら折れてしまいそうな肩に、細い腰、すらりとした足。

「初音…ミク…?」

隣で姉さんも呆然としたまま呟く。確かにそこにいたのは、今や人気も絶好調の初音ミク、だった。

「今日からお前らの妹だ。仲よくしてやれ」

マスターに促され、一歩前に進み出た彼女の柔らかそうな青緑色がふわ、と揺れる。

「あ、あの…初音です。よろしくおねがいします」

恭しげに下げた頭は軽いものだったが、身長が違うせいで僕には白いうなじが丸見えだった。
その白さに目をひかれたのも事実だが、それ以上に。

「敬語はなしよ、ミク。もう兄弟なんだから」
「あ、はい…じゃなくて、うん。メイコお姉ちゃん、カイトお兄ちゃん」

ここには太陽の光なんて届くはずもないのに、首を緩く傾げて微笑む彼女の周りに光彩が散った。気がして。

「…天使?」

誰にも聞こえないように、そっと呟いた。
そしてあれほどまでにバカバカしいと思っていた、神に対する考えはがらりと音をたてて崩れていく。
だって。


天使のような君を見た時、僕は思わずを信じた
(いやむしろ信じざるを得なかった)



おしまい。


おにいちゃんのへんたいしすこんはここから始まりました。出会い頭に天使とか言われても、メイコさんに殴られて終わると思います。そんなこんなで、兄さんはちょっと頭のねじが飛んでます。


お題提供>>確かに恋だった

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