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□ああ、切ないなあ
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02あぁ、切ないなぁ。



時間がたてば忘れられるだろうと思っていることほど、なかなか忘れられないものだね。
呟くように、自然に空気にとけこんだ声に、真田は古書から顔をあげた。
向かいに座った男の顔は天井を向いて(というか、仰け反っている。大丈夫か)、真田の位置からは表情が読み取れない。
それでも、どうせまだ下らん顔をしているのだと、容易に想像できてしまうあたりこの話題は幾度となく繰り返されたものだった。

「前田、おまえ、もう少し話題を増やしてはくれないか」

同じ話題は聞き飽きるのだ。
できるだけ辛辣に聞こえるように言ってやると、男はえぇーと不満にも似た声で返事をした。
何がえぇーだ。とさらに突き返すと、幸村つめたい、と恨みがましく男は呟いた。

忘れたいと、彼は言ったはずだ。
忘れられる、とも。
そのときを、律儀に待っていてやる自分はなんて寛大なんだろうと真田は心底思う。
いつまでたっても、彼は『それ』を忘れていないのだから。

いっそのこと、鈍器で頭でも殴って強制的に忘れさせてやろうかとも、思った。
だけど、下手したら犯罪だねと彼が笑うから、まだ犯罪者はいやだなあと思って一度は却下した案だったが、最近またそれでもいいかと思い始めている。(犯罪にならないよう気をつけて)

そしてふと、真田は思うのだ。

『忘れたい』のではなく、『忘れたくない』のだろうと。

心と、行動が一体にならないから堂々巡りなのだ、きっと。
認めて前へ進むことを、彼は覚えないから。
忘れることが、一番だと思っているから。
だから時間がたっても忘れられないのだろう。

(結局、莫迦なのだ)

自分も、彼も。
教えてやればいいだけのことだ。
認めればいいことを。
それをしないのは、すっからかんに忘れてほしいと思う気持ちが、真田の中にあるから。

二度と思い出さない記憶の底へ閉じ込めてしまってほしいと、真田が願っているから。

「ああほんと、切ないなあ」

ぽつりと静寂に落とされた呟きに、真田はようやく古書に目をもどしながら、そうだなと短く簡潔に、だけれど彼が一番望んでいるだろう答えを返してやった。

(切ないのは、片思いをしているこっちのセリフだ)



おしまい。


忘れてしまいたいと本当は思っていないのに、忘れてほしいと願う幸村を知っているからこそ、そのために忘れたいと願う慶次がまたこう鬱々と考えてる話でした。真田はたまにこうやって冷たくなります。現代版真田は男前受け推奨。せーつーなーいーかたおもいーあなたはきづかーなーいー


お題拝借>>コ・コ・コ

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