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□注意報
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3 注意報 盗まれたもの

覚悟していてね。
彼はそう言って、ピッ!と人差し指を突き出した。
なんというか、そう、これは。

「…宣戦布告?」

冗談めいて呟いたそれに、目前の彼は悪戯っ子の笑みで答えて見せたのだった。


どうしたものか。
片倉は一人部屋で頭を抱えていた(というか、抱えていなければやっていられなかった)。
悩みの種はいくつもあれど、一番悩ませているのは先日のこと。
主の従兄、成実が主の異国語以上におかしなことを口走ったから。
『こじゅうろうがすき』
もちろん、らぶだよ! と、主の受け売りで覚えたのであろう拙い異国語を伴って(しかし、片倉にはそのらぶ、とやらの意味は測りかねた)。
なぜ今更。
というか、なぜ自分。
考えても考えても、片倉に答えは見つからない。

純粋に、成実の好意はうれしい。
幼い頃から、主の面倒とともに成長を見てきた。
喧嘩っ早い所や人の話を聞かないところや暴れたがりな所や拙い話し方は今も変わっていないが、彼のその心境は多分、10年の間に敬愛から恋愛に変わっていったのだろう(それでもなぜ自分なのかわからない)。
本人に聞くが一番容易い。それはわかる。
だが、今成実に会うのは憚られた。

会えば必ず、その心のままに片倉に甘えつくしてくる。
甘えられるのが存外悪い気もしない片倉は、成実を甘やかす。
それでまた、成実は片倉に恋愛の念をぶつけてくる。
その堂々巡りだ。

(もういっそのこと政宗様に言っちまおうか…)

主であり従兄である彼の命令で、片倉にそういう気持ちを持つのをやめてやれと言われれば…―。
…いや、それはたぶん火に油だ。
彼は怒って、手がつけられなくなって、仕舞いには泣き出して、義兄に自分が叱られて。
どうにも手の打ちようがない。

はあーっと深いため息とともに、この悩みが出て行ってくれればいいのにと、片倉は思う。

大体成実は、右脳で生きているような少年だ。
あの告白も、深い意味はなかったかもしれない。
だけど、どうも思い出してしまうのだ。
すきだといったあと、答えを出し渋った片倉に真正面から向かい合って突きつけたあの意志の強い瞳と指先。
『覚悟していてね』と吊り上げた薄い唇。

(ああまずい)

覚悟などとうにさせられていた。
あの日、注意報は出されていたのだから。

(ずっと考えてしまっている時点で俺の負けだ)

犯人:伊達 成実
盗まれたもの:片倉 小十郎の心

おしまい!

罠を仕掛けるのは得意中の得意。
ああこれは絶対右目×従兄だなと思いました。途中で筆頭が怒るシーンも入れたかったんだけど、小政になるのでやめました。次こそは小政が書きたいです。


お題拝借>>ノイモ

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