だいすきな君に。
□01.実はいい奴
1ページ/4ページ
.
ざっくざっく。
ざっくざっく。
「…………。」
ざっくざっく。
「………。」
…………………。
由妃は汗をぬぐい、鎌を持ったまま立ち上がる。
「だ――――!!もう我慢できないっ!」
「わっ!び、びっくりしたぁ!由妃…どうしたの?」
由妃は軍手を脱ぎ捨て、言い放つ。
「もう我慢できない!!私っ、百枝さんのところ行ってくる!!」
「…由妃?」
「ふふふふふ。まぁ任せてよ千代!」
それだけ言うと由妃は駆けていき、一瞬で姿が見えなくなった。
それを千代はポカーンとしながら見るのだった。
「はいっ!みんな集まってー!!ドリンク飲みながらでいいから!」
「ん?仲川?」
「なんだ?」
「なになにー?」
休憩中に由妃が声をかけると、みんな集まってくる。
由妃は嬉しそうににんまり笑っている。
それに嫌な予感を感じた人数名。
由妃はにんまりと微笑むとドサリと軍手、ゴミ袋を置く
。
「――今から一時間!みんなでグラウンドの草むしりをしてもらいますっ!!」
「「え―――――っ!!」」
文句が出るのは分かっていた。
不満そうに叫んだのは田島と水谷である。
(「なんでー!れんしゅーしよーぜー!」「暑いじゃん!」と叫んでいる。)
しかし由妃はにっこりしながら口を開く。
「何か文句でも?」
「「なんでもないです。」」
その一瞬でしゅんとする田島と水谷。
その様子を見て部員達は深くため息をついた。
(ああ…。)
(やっぱり撃沈か…。)
(まず仲川に適うわけがない。)
由妃はにっこりしながら説明を始める。
「なんで急に草むしりって言うかもしれないけど!私たちマネジは草むしりは死ぬほどやってます!!」
千代の肩をつかみ、一人うんうんと頷く由妃。
「大雨が降ったあとに大量の雑草!台風のあとに大量の雑草!!太陽にギンギン照らされて!!田島がくれたどでかい麦わら帽かぶって!!――なぜ私たちだけ死ぬほど草むしりをしないといけないのか!草むしりはみんなでやるものではないのか!むしろグラウンド主に使
ってるのはみんなだよ!!……と思うわけです!!」
拳を握りしめて言う由妃は部員達を静かにさせる。
(演説…?)
(てか力強い…。)
(確かに草むしりのあと由妃と篠岡顔真っ赤で帰ってくるな…。)
(やべえ、かなり本気だ。)
(仲川さん、たちっ!いつも、大変そう…っ!)
(あーこれは断れない…。)
(しのーか笑ってるぞ。)
各々いろいろなことを考えながらもしんとする。
由妃はキランと目を光らせ、続ける。
「だから今日はみんなにもやってもらいます!名付けて“死ぬほど暑い中で草むしりやっちゃおうぜ!みんなでやればすぐ終わる”!!」
「「「……………。」」」
微妙なネーミングに黙り込む部員達。
そんな彼らに気づかず由妃はうんうんと頷く。
そんな中、田島が手を挙げる。
「はい!」
「はい田島くん!!」
「モモカンはオッケーだしたのか!?」
そのセリフに彼らは頷く。
休憩後の練習時間に草むしり。
百枝の断りもなくできるものではないだろう。
しかし由妃はそれを聞いてにんまりと笑
う。
「もちろん百枝さんにも許可は貰ってます!ばっちりオッケー!“自分たちの使うものは自分たちで整備するのも大切だよね!”だそうです!」
その言葉に部員達は諦める。
由妃は満足そうに明るく言い放つ。
「よし!てゆうわけで10分後グラウンド集合!みんな鎌と軍手持ってきてね!!」
「「「うーす。」」」
「♪」
テンション低めの部員達とゴキゲンな由妃。
不思議な空間がそこにでき上がっているのだった。
.