そばにいてくれる君へ。
□26.一人でやることに意味がある
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それは、ある日突然のことだった。
「仲川ー、お前ピッチャーな。レギュラー。」
「…………………は?」
由妃は突然のことにぽかんとする。
先生に呼ばれたと思えばその言葉。
「…なんだ、イヤか?」
「うえ!?いやいや!!てか、あの…。」
「2年にはピッチャーいないしなあー。」
「いや、あの…。」
レギュラー、その意味は。
もう3年最後の公式戦がある。
それなのに1年の自分がレギュラー、とはどういうことなのだろう。
(先生の言う通り、2年にはピッチャーはいないが。)
先生もその意味に気づいたようで「ああ、」と口を開く。
「アイツらなー、練習に来ないだろ?放課後の練習なんて全然来ない…それに、仲川は楽しそうにプレイするからな。」
ははは、と笑う先生に由妃は未だぽかんとする。
「ま、頼むぞ!」
「は、はぁ…。」
よく分からないまま返事をすると先生は「以上、帰れ」と由妃を払いのけた。
ピシャリと職員室の戸を閉め、由妃は「う゛ーん、」と唸る。
「…先輩たち最後、だけど…でもやるからには手を抜いちゃダメ、だし。」
う゛ーん、と唸り、由妃は腕を組んで悩む。
「………………やっぱちゃんとやろう!!それが先輩に対する礼儀だ!!」
うん、と頷きながら由妃は大股で歩いていった。
―――
「お願いしますっ!!」
「うん!仲川今日もよろしく!!」
この日も3年の姿はなく、1、2年での練習となっていた。
チームも大分形になり、まもなく大会という頃だ。
「仲川、いる?」
「はいっ!」
珍しく3年が部に顔を出す。
突然現れた3年に全員が止まった。
「先生にさ、聞いたよ。」
「仲川がピッチャーやるんだって?」
「…ーはい!やってます!!」
目の前にいるカナとユカの姿をまっすぐに見ながら答える。
「…じゃあミズサはどうなるわけ?」
由妃はピタリと止まり、2人の後ろにいるミズサを見た。
ミズサが、3年唯一のピッチャーだった。
もちろん彼女がレギュラーだった。
由妃は、視線をそらすことはない。
「…私は、私にやれることをやってるつもりです!」
「じゃあミズサがレギュラーじゃなくなっても関係ないってことだよね?」
「そんなことないです。先輩、練習に来てください。…練習、しましょうっ!」
「!!あんた3年に何言ってるか分かってんの?」
「はい。…私は、やるからには手は抜けません。練習、しましょう!」
由妃の言葉にカナがボールをつかみ由妃に投げつける。
「!」
「由妃っ!」
ガッ!
ボールは由妃の足にあたる。
「バカにしないで!」
「してないで―「黙ってくれる?」
ぴしゃりと言葉を遮るカナにユカが彼女を止めた。
そして由妃を見る。
「―わかった。明日から練習、やるよ。」
「ユカっ?」
「い―から。当たり前でしょ、私たちが練習来なかったからだし。」
ユカがそう言うと2人は黙って頷いた。
彼女はそれに頷き返し、じゃあまた明日、と言うとグラウンドを去る。
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