そばにいてくれる君へ。
□08.その先に
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ー5回裏
「ボールフォア!」
先頭、巣山が一塁に進む。
次打者の阿部へのサインはバント。
市原はスクリューを投げ、阿部ははじいてしまいファールになる。
「トーライ!」
(…スクリューで来てる。市原さんなにがなんでもコールドっていう結果にならないように頑張るのかな?じゃあ次もスクリュー…。)
市原が投げたボールはやはりスクリュー。
阿部がかするが、ファールボールになるはずの球は、通常の軌道からそれていたのにも関わらず佐倉がキャッチする。
「トーライ!」
(!!ナイキャッチ。佐倉、目がいいんだ。…あとは、作戦を考える能力さえあればー…いいキャッチャーになれる。)
7番、沖はアウトになる。
そして8番水谷に移る。
由妃はちらりと花井のいる方を見る。
(…考えてる、よね。全然声出ししてないし。ああもう、私の言ったことが逆効果だったらどうしよう!!)
頭を抱え百枝を見る。
(お、怒られる!?花井、マジ頑張ってよね!!)
「…由妃大丈夫?変な顔になってるけど。」
「変って何さ!私だってドキドキなんだからねっ!」
勇人のアホ!と軽くどつく。
しかし勇人は苦笑いでこちらを見るだけだった。
文句を言おうと口を開こうとするとアナウンスが入る。
『両チームでグラウンドの整備をお願いします。』
「あ、行かないと!」
アナウンスが聞こえた途端走り出す勇人。
由妃が身を乗り出すが間に合わなかった。
「逃げられた!!」
「あ!?」
そんな由妃の隣で、同時に手を伸ばしている阿部。
いろいろと怒りのこもった表情をしている。
「?阿部なにしてんの。」
「三橋な、ベンチ戻れっつっとくから。」
花井が阿部を見ながら言う。
(どうやら三橋もグラウンド整備に出てしまったようだ。)
「お前は気ィ鎮めとけ!」
「はあい…。」
怒りをこぶしに込めながら花井を見送る。
「あはは、三橋くん行っちゃったんだ!てかそのこぶし!!やめなよ、三橋くんが驚いちゃうでしょ!」
「ちっ、」
「舌打ち!阿部そのクセやめなよ!だから三橋くんも怖がっちゃうんだよ!」
「仲川がうるせえからだろっ!」
「うるさいなんて失礼な!早く怒りをおさめなよ!花井が連れて来てくれるんでしょ!!」
そう言うと阿部は視線をグラウンドに向けた。
「…くそ、遅せぇな。」
「そういえばそうだね。花井と変わるだけならすぐ来るはずだけど。」
グラウンドの端を見ても三橋の出てくる様子は見られない。
そして先に整備の方が終わってしまい、みんながトンボを片付けに向かう。
「あ、来た。」
三橋と田島が少し遅れて走ってくる。
それを確認すると阿部は立ち上がった。
「三橋っ!!!!」
突然の怒鳴り声にびくっ、とする三橋。
それを見て由妃はその間に入る。
「ちょっと阿部!うるさいっ!てか怒鳴るのやめてよね!!!」
「仲川もうるせえだろ!」
「人のコト言って自分のこと棚に上げんなっ!!」
「はあ!?…ち、まあいいや。三橋。」
「っな、に?」
「花井に言われてなんでスグ帰って来ねーんだよ。」
阿部に聞かれ、三橋は首を傾げる。
「??な、何?を、言われ…。」
「なんか話してたのか?」
それを聞いて由妃も三橋をじっと見る。
「話…ええ、あ?」
言いよどんでいる所で田島が笑いながらグラウンドに向かう。
「花井が三橋イジメてたんだよー!」
「ちっ、ちがうっ!!」
そう言いながら三橋は田島を追う。
阿部はため息をつきながらグラウンドに向かった。
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