そばにいてくれる君へ。

□32.待ってる
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さぁ、終わりにしよう。


この長い長いわだかまりを解こう。


その為には、自分から動かなければいけない。









「……よし、うん。行くぞ。」


ぐっと手を握りしめて意気込むのは由妃である。


彼女は校舎の入り口に立っていた。


「よし、行くぞ!!」


そう言い続けて数分が経っていた。


由妃は下駄箱に手を当て、自分に対して呆れのため息をはいた。


先輩達に挑戦状を叩きつけると決め、夏期講習を行っている教室へ向かおうと思っているのに心がそうさせず、下駄箱で立ち止まってしまったのだ。


(やっぱり、怖い、のかな…。)


あの出来事は由妃にとってあの時に勝負を決めきれなかったことはずっと心の中に残っていて、今でもわだかまりとなって残っている。


そのせいで“心”が病んでいる部分があるのは確かである。


先輩がいると分かり、話しをして(向こうの独壇場だったけれど)やはり勝負を決めなければと決意した。


ここで勝負を決めれなければ何故勇人とケンカしたのか、千代と心に心配かけたのか意味がない。


そうは思っているのに動かないこの
足は正直である。
(やはり行きたくはないのだ。)


俯いて考えているが、いつもの由妃も顔を出す。


自分はこんなに弱くない、弱いはずがない。と由妃はキッと顔を上げた。


「――よし!行くぞっ!」


一歩踏み出そうとした足はそのまま停止した。


自分にまたため息を吐こうとした時だ。


「………何回それやるの?」


「――!!!び、ビックリした!!」


横から突然声をかけられ由妃は心臓を抑え、いつの間にか後ろにいた幼なじみ、勇人を睨む。


「いやいや、怖いから。」


「ゆーと!!なにやってんのさ!まだ練習中!!」


キッとして言うが勇人はそんな視線にはもろともせずサラリと言った。


「モモカンに頼まれごと。由妃、」


名前を呼ばれ由妃は視線を勇人に向けた。


「オレも、ついていくよ?」


「―――!!」


勇人の心配そうな表情を見て由妃は揺らぐ。


一人でトラウマに立ち向かうのは苦しい。


勇人がそう言ってくれたら簡単にそちらに頼ってしまいそうだ。


だけど――。


由妃は一度
息を吐き、首を振った。


「ううん。いい。一人でいく。」


百枝に頼まれ事、とはきっとこじつけだろう。
(選手が練習中に百枝に頼まれ事をされるなんてそうあることではない。)


わざわざ由妃の後をついてきて、立ち止まってしまった由妃背中を押しに来てくれたのだ。


勇人の優しさに暖かい気持ちになる。


そして勇気づけられ、由妃はにかっと笑う。


「私自分でやれる!ありがと勇人!!」


力強くそう言うと勇人はしばらく由妃を見つめ、そしてふ、と微笑む。


「――ん。分かった。“待ってる”から。」


「うん!」


由妃は勇人の顔を見て歩き出す。


たかが挑戦状を叩きつけるだけでこんなにビビっていては話し合いなどできるわけがない。


きちんと、話をしたいのだ。


力強く歩いていく由妃を見て勇人は息をつく。


「大丈夫。由妃なら大丈夫だから。」


彼女の背中を見てエールを送る。


「がんばれ。」


由妃は背筋をまっすぐにさせ、歩いていった。






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