竜の目

□第五話・白い箱
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「名無し子もいなくなったことだし、お話しておきたいことがあります。」


くるりとラルはルフィ達を振り返った。

ルフィは相も変わらず食べ続けている。

「名無し子が連れて来るということは、少なくともあなた方を信用していると思うので。」

「…名無し子がいたら出来ない話なの?」

「そんなことはないですが、やっぱりいるとしずらいですから。」

店内の客にはどうやら察しがつくようで、すでにしんと静まり返っていた。

「名無し子はきっと、なんで蒼虹を探すかとか重要なことは何も言ってないでしょう?」

「…、」


「一応、知っていて欲しいんです。」


「そうね。名無し子って自分から言うようなタイプには見えないし、聞ける時に聞いとくわ。」


「おれもだ。」

「かわいいお嬢さんの話ならなんでもv」


ルフィは相も変わらず食べ続けている。

「あ、あいつは気にしないで。多分聞かないから。」

「うっめェェェエ!おっさんコレ何て言うんだっ!?」

「はぁ、じゃあ…」






























「なんだ、誰の墓だ?」

ゾロが名無し子の後ろから問いかけた。

名無し子はナツコダカの花を墓に置くと、静かに答える。

「両親だよ。母親は生まれてすぐ、父親はおれが12の時に死んだ。おれは父親に剣術を習ったんだ。」

「…。父親は剣士か。」

「いや、刀鍛冶だよ。剣の腕も良かったけどね。」


名無し子は立ち上がって少し移動する。

そして、もう一つの十字架の前に立つ。墓と呼ぶには質素すぎるそれに、ゾロは首を傾げた。


何かが埋まっている様子もなく、ただ飾りのように十字架が立っているだけなのだから当然だ。


「墓か?」

「ああ、墓だよ。」

「誰の。」


今度はすぐには答えることはしなかった。






「…今は、誰もいない。」



「…?」

ますますわからない。

だれも入っていないなら、十字架を立てる意味はないからだ。



「…おれと妹が入る墓だ。」

「双子のか?」


ばっと勢いよく名無し子がゾロを振り返った。

いくらか呆けてから、名無し子はそれを認める。

「なんでわかった。」

「カンだ。蒼虹と紅霓は二本で一対なんだろ?刀鍛冶の親父からもらったんじゃねェか?」

「変なとこカンがいいね。」

「あのラルってェのが妹か?」

「違うよ。妹は名無し太。5年前死んだ。」


ゾロは口を噤む。

気の毒というより、ますますわからないから何も言えなくなったのだ。

なぜ妹が死んだと言うのに誰も埋まっていないのか。


「ここ、眺めいいでしょ。」

「?あ、ああ。」


島の端に位置するここは崖になっていて、高い場所から遠くの水平線まで見えるのでとても美しい。


「天を貫く大蛇が竜。竜は春分には天にのぼり、秋分には淵にかくれる。きっとグランドラインなんか隅々まで見れるだろうね。」


名無し子は立ち上がる。


「おれたちは、その竜の目を連れてそれぞれの人生を思い思いに歩こうって決めたんだ。だけど、そしたらきっとおれたちは離れ離れで死ぬだろう?」

今度は崖から林の方へ歩く。


「だから離れ離れで暮らしても、死んだら同じ墓に入れるようにこの世界中全部を墓にしたんだ。バカだろ?」

まだ崖の方に立つゾロを振り返って笑った。

「…。」

「さ、つまんない話は終わり。早く用を済ませよう。」

「まだあんのかよ。」

「いや、ここからが用事なんだけど。」




















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