竜の目

□第二話・アーロン
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魚人は名無し子とゾロを乗せた船をアーロンパークへと向かわせる。縛られた二人はひそひそと話す。



「で、なんでお前は残った。」

「濡れたくないからね。このコート、なかなか乾かないし。」

あっけらかんと名無し子は答えた。

「と、いうのは冗談で、やっぱり怪我人だけだと心配だからね。邪魔?」


にこりと笑った。


「別に…」

「そっか。」


本当の意見ではなく、建て前を述べてまずは言いくるめる。


「つーか、お前があの場でおれの縄切れば逃げられたはずなんだがな。」

「あ、そっか。ごめんね。」

名無し子は、あははと笑って謝る。まるで今気付いたかのように。


「遅いんだよ。」

「でも、こっちの方が正しいかもよ?」

少しだけ表情を固くして呟く。
「あァ?」

「お金、集めてるみたいだったから。…どうもそれが引っかかる…。海賊嫌いだって言ってたけど、実際はー…「うるさいぞ人間!黙ってろ!」


本当に思っていた内容を話し終えるまえに魚人によって話は途切れた。
そしてそびえ立つアーロンパークの門の前で叫んだ。


「門を開けろォ!!!あやしい奴を連れて来た!!!」


「ただモンじゃねェとも言っときな!!」


ゾロはにやりと口角をあげて言っう。

「・・・全く・・・」


名無し子はその隣でわざとらしくため息を付いた。
































★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★






















「だから女を一人探してるっつってんだろ!!!半魚野朗!!!」

ゾロがアーロンを睨みつけながら言った。

「ホウ・・・下等な人間が言ってくれる・・・。一度は許すが、半魚ってのは二度と口にするな!!」

(・・・・ゾロは本当に相手を煽るなぁ・・・)


名無し子が話しているときのアーロンの見下す態度が癇に障ったのか、ゾロが間に入ってアーロンを煽り始め、もう名無し子がどうこう言って収まるものではなくなってしまった。


(まぁ確かに真面目に取り合ってくれるような感じじゃなかったけどさ・・・)

「人間が魚人に逆らうってのは“自然の摂理”に逆らうも同然だ!!!」

スタスタ

「そのバカみたいな持論は聞き飽きたわ、アーロン。」

「!!?な・・・」


ナミが建物の中から現れ、アーロンの隣でアーロンに非難の目を浴びせる。


もちろん手足を縛られているわけでもなく。


「・・・そう恐ェカオすんな!お前は別さ、ナミ!!我等がアーロン一味の誇る有能な“測量士”だ。実に正確ないい海図を作ってくれる!!」

「あんた達とは脳ミソの出来が違うの。当然よ!!」


ナミは鼻を鳴らしてアーロンに乱暴な言葉を返す。




(やっぱり、こういう訳か…。)





「測量・・・?!・・・おいナミ!!!何でお前がコイツらと仲良くやってんだ…!!」

「何だおめェの知り合いかよ。」

「バカ言わないで。ただの獲物よ。今回はこいつらからたっぷりお宝を巻き上げさせてもらったの。」

「…!?」

「途中まで追ってきてたのは知ってたけど、まさかここへたどりつけるとはね…」


信じられない、と言う顔をしたゾロは、表情をキツくしてナミを睨みつける。


「これがテメェの本性か!?」

「……そうよ。おどろいた?私はアーロン一味の幹部。もともと海賊なの。」


ナミはゾロの前にしゃがみ込んで、いままで船で一度も見せたことのない嫌な笑い方で言った。


「シャハハハハ…まんまとダマされてたわけだな。こいつは金のためなら親の死さえも忘れることのできる、冷血な魔女の様な女さ!!」

「……!!!」

「「!」」

ナミの表情がギクリと一瞬変わったのを二人は見逃さなかった。





(…もしかしたら、)



「宝をダマシ盗ることなんざわけもねェこった!ましてバックにゃおれ達がいる。」

魚人達は気付かないようで、アーロンは至極楽しそうに続けた。

「なるほどね…。まぁおれはもともとコイツを信用してたわけじゃねェ。たとえ殺人鬼だろうと、別に驚きゃしねェよ。」

(なにか理由が…?…楽天的だ。今の顔だけで判断しちゃいけない…。)

「おれは最初っからてめェがこういうロクでもねェ女だと見切ってた。へへ……!!」


ゾロは表情を一転させ、笑いながらナミを見る。


「フン…だったら話が早いわ。ダマされてたと理解できたら、宝も航海術もあきらめて消えてくれる?目障りだから!!」





トン




「!」

「え…」

ドボォン!

「ゾロッ?!」

ゾロが突然背後の海に飛び込んだ。

「な…何だァ?!」


「どうした?!何であいつ急に飛び込んだんだ?!」

「何か面白ェこと言ったのか?!」

「いや別にズっこけた訳じゃねェだろうよ」

「逃げたんだ!!」

「違うだろ。両手両足縛った人間が泳げるかよ。」

「じゃ自殺か」

「……!?」

ナミの表情がみるみる内に青くなっていく。

「放っとけ…!!」

「あのバカ…」

カカッ




ザブン!



「ナミ?」

ナミが靴を脱いで海に飛び込んだ。


(!?…ナミは、おれ達を騙してて、仲間じゃなくて、…そんなことはないのか?)


ナミの不可解としか思えない行動に、その場の誰もが混乱する。




「?」

アーロンも例外ではなく、ただじっと水面を見る。



ばしゃっ




「お…出てきた。」

「おい何事だよナミ!!」

「ブハッハァハァ」

「何のつもりよ…」

「ゲホッゲホッ…てめェこそなんのつもりだ。」



ゾロがにやりと不敵笑ってナミを見やった。


「人一人も見殺しにできねェような小物が…粋がってんじゃねェぞ!!!」

「!……!!」

「……さっさと助けやがれバカ。死ぬかと思ったぜ…」

「フザけんな!!!」

ドカッ!!!

「ぐあ!!!」

ゾロの背中を蹴りつけ怒鳴る。

「これ以上私に関わると死ぬわよ!!!」


顔をつかみ至近距離で言う。


「どうだか…」

「……たいそうな包帯ね。」

「服の替えがなくてよ…!!かわりだ。」

「……!!」


ドス!!


「ごゥ!!!」

今度は拳が傷のあたりを直撃した。

「…!!!!」

「おいナミ、あいつとこいつをどうする。」


スタスタと建物に向かい歩くナミにアーロンが声を掛ける。


「ブチ込んどいて!私が始末するわ。」

「アーロンさんアーロンさん!!」

「どうした同胞よ。」

バタバタと魚人がアーロンの元に駆け寄ってきた。

「もう一人の鼻の長ぇ奴を取り逃がしちまった!!」

(ウソップは結局見つかっちゃったのか…。)

「……!」

「多分ココヤシ村に逃げ込んだんだと思うが、」

「ココヤシ村か…ちょうど用があった所だ…。」

ニヤリとアーロンが嫌な笑みを浮かべた。

























★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★





















「ゾロ、」

「うぉッ、な、何だよ…」


呼ばれて顔をあげれば、縛られたまま胡座をかいて座るゾロの前に膝立ちになった名無し子がいた。



ぽすん。

「うァッ?!!」

ドサッ



端から見れば名無し子がゾロを押し倒した状態。

そのままの状態で名無し子は頭をゾロの鳩尾辺りに押し付ける。

「やめろよ!!気色悪ィっ!!!」

男にすり寄られて嬉しいはずもなく、ゾロはジタバタともがく。

「動くなっ!止血してんだから!」

「は?」

ピタリと抵抗を止めると、目を点にする。

「さすがに開いてるかもしれないから圧迫止血。気休め程度だけど、しないよりはマシでしょ。」

「…。」

納得したようでゾロはなされるがまま転がった状態を維持する。

名無し子を頭から見下ろした状態でいるため、もちろん名無し子の顔が見える。





(女みてー…)





乗られているために名無し子の体重がかかっているが、心無しか軽い。上半身のみだからとも思うが、やはり軽いように感じていた。密着しているために名無し子のボディラインが大まかにはわかるのだが、それもまた細いように思える。


(なんつーか、男臭さみたいなもんがねェんだよな。)


少々荒れてはいるが、形の良い唇は何となく色っぽい。そして鼻筋の通った鼻。おそらく整った顔立ちをしているのだろうと予想される。


目隠しの下はどうなっているんだろう、と思ったがそこまで考えて男相手に何考えてんだ。と思考を停止させた。


何となく気まずい雰囲気を感じて、ゾロは名無し子から目を逸らす。







「どう思う?」

「…何が。」


静かに問う名無し子にゾロは一度ピクリと跳ねたあと静かに返した。


「ナミだよ。」

「…。」

「ナミが好きでアーロンについてるとは思えない。」

「確かにな。だが、んなこたァ関係ねェ。」

「…へ?」


まさかの予想外なゾロのセリフに名無し子は首を傾げる。


「船長命令は、“ナミを連れ戻せ”。あいつがなんだろうと関係ねェ。あの半魚野郎ぶっ飛ばして連れてきゃ問題はねェだろ。」


ニヤリと笑ってゾロが言った。それを下から見上げる名無し子も笑って返した。





「変な海賊団に入っちゃったなぁ…。」


カッカッカッカッ…

ばっ!

名無し子とゾロは足音に身を起こす。




ばんッ!



「ナミ!」


ナミは無言で二人に近づくと、持っていたナイフを縄に当てた。


ブチッ


「さっさと逃げて!!アーロンが帰らないうちに。」

「ん?」

「へ?」












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