竜の目
□第一話・麦わら
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ガヤガヤとした店内は美味しそうな匂いを漂わせ、ガラが悪くも味は十分過ぎることを物語っている。
なにより名無し子自身、その身を持って知ったあとなのだ。
味もだが、先程の海軍の大尉に大しての物怖じしない副料理長の態度にも。
(さすが海賊達も立ち寄るというだけはある。)
「こちら、下げても?」
「あ、はい、ごちそうさまでした。」
すっ、と現れたのは先程大尉を…、
客たちを笑わせた副料理長だった。
「キレイに食べてくれましたね。」
彼は少し驚いた顔で言った。
「いや、美味しくて皿まで舐めるとこでした!はは。」
「アスパラ、食いが悪かったですよ。」
彼はふんわりと笑って言う。
「…バレちゃいましたか…」
まさか他人にバレるとは思わず、今度は名無し子が驚いた。
「微妙にね。まぁ残す客の方が多いんですがね。」
カチャカチャと食器を重ねながら彼は笑った。
「自分は海をふらふらしてますから、食べれる時に食べとかないと怖くてしかたない。」
「それを言うと俺から見ても海賊たちの方が食いが良くて気分はいいですよ。」
「はは。」
どうやら話してみればそこまで嫌な感じはしない。
むしろ好青年だった。
「ところで海賊と言えば、ここのオーナーのゼフさんにお伺いしたいことがありまして。ゼフさんにご都合がよろしければ是非お話、」
「ウェイター!」
名無し子が本題に入ろうとした瞬間に先程の大尉が話の腰を折った。
「ん?すいません、ちょっと失礼。」
す、と彼は食器を片す手を止めて大尉の方に行ってしまった。
「あーあ…、待つか…」
どうやら大尉が彼に文句を言っているようで、長くなりそうだった。