竜の目
□第十五話・桜
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「え!!?もうこの町を出た!!?」
名無し子達がビッグホーンの隣町、ココアウィードに着いた頃にはもう魔女の姿はなく、痕跡である少年がいるだけだ。
「何てこったすれ違いかよ。」
「さっき僕の病気を治してくれたんだ。」
「ちゃんと医者なんだね・・・」
かなり高齢だと聞いて不安だった名無し子だが、少年の笑顔を見てほっと息をついた。
「ドクターを探してるのかいドルトンさん。」
「急患なんだ。ドクターの行き先を知らないか!?」
「ギャスタの方へ向かったと誰かが言ってたぜ。」
「ギャスタへ!?」
「どこだそれ?」
せっかく着いたというのにまた移動しなければならないと聞き、名無し子は小さくため息をついた。
「この町からさらに北へ向かうとある湖畔の町だ。そうだな、あと・・・スケートがさかんだ。」
「行きましょう!!ここまで来たら迷ってるヒマはないわ。」
「そうだな。」
「ドルトンさん。」
「ああ、直ぐに────」
「ドルトンさん!!ドルトンさんはいるか!!?」
バン!!
大きな音を立て入って来た男が何やら慌てた様子で店に飛び込んでくる。
「どうした、君は確か今日の見張りでは・・・」
「おれ以外の見張りは全員やられちまった・・・!!!突然海岸から潜水帆船がうかんできてみんなあいつらにやられたんだ!!ドルトンさん助けてくれ!!!おれ達の力じゃ・・・」
錯乱した男はとにかく危機を伝えようとしているようだが、上手く伝わらない。
「落ちついてはなせ。一体誰にやられたんだ。」
「ワポルの奴が帰ってきやがった!!!!」
「!」
男の言葉に店の人間全員が大きく震えた。
「ワポルが・・・!!?奴は今どこに・・・」
「あんたの村だ・・・ビックホーンが今大変なことに!!!」
「あ!ドルトンさん!!」
バン!!
聞くや否や、ドルトンは店を飛び出していく。
「・・・・・・ギャスタは・・・?」
村人が慌てている中、名無し子はひっそりと頭を抱えた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「おいビビ!本当にこっちであってんだろうな・・・!!魔女のいるギャスタって町は・・・!!」
一面の銀世界をソリが通っていく。視界は山と真っ白な雪しか無いため、距離感が掴みにくい。
「そう言われるとちょっと自信ないんだけど・・・」
「自信ないじゃだめじゃねェか」
「でもまぁこんな雪だらけじゃね・・・」
結局ドルトンや村人は独裁国復活の危機により他人の事どころではなくなり、三人は地図を手に慣れない雪原をソリで進んでいた。
「いいか!?もしナミ達がやっとの思いで城について医者がいなかったら、あいつらオイ何やってんだ?ってことになる訳だ!!王女だろ、何とかしてくれ。」
「関係ないじゃないそんなことっ!!だったらウソップさんが見てよ地図。」
「ばか言えっ!!一面雪だらけなんだぞ!!おれは全くわかりません!!」
「いばるなよ・・・。」
「いい?・・・とにかくこの道の途中にギャスタへの看板があるハズなの。それを見落とさないで。」
「OK任せろ!!」
「りょーかい。」
この道、と言われても最早その道がどの道なのかもわからない二人は、ビビの言った看板を見逃さないよう目を凝らす。
「それにしても、すごい雪・・・」
「お前今更だな。」
看板を探しながらしみじみと呟いた名無し子の言葉にウソップが笑った。
「いや、そうなんだけどさ・・・。改めて考えるとやっぱりすごいなって・・・故郷じゃこんなに降らなかったし・・・。」
「なら、ビビの方が珍しいんじゃないのか?」
「ええ。こんなに雪を見るのは初めて。アラバスタは夏島だから・・・。」
「でも砂漠があるんだよね?」
「オアシスもね。」
「今から楽しみだ。」
名無し子が笑うとビビも嬉しそうに笑う。
「・・・・・・・・・?」
笑い合っていると、ふと名無し子が怪訝そうな顔をした。
「どうした?看板見つけたか?」
「ううん・・・なんか・・・耳鳴りっぽい。」
そう言うと視線は雪原に向けたままとんとんと耳を叩く。
「叩いてどーする。」
「え、普通に叩かない?」
俺は叩かないぞ、と自己流の耳鳴り対処を語り出したウソップの声には耳を傾けず、名無し子は少しずつ大きくなっていく耳鳴りに注意を向ける。
そして────
「唾を飲み込むとか・・・」
「・・・こ、れ・・・」
「ん?」
「耳鳴りじゃ、ない。」
「あ?」
眉を寄せて、名無し子はぐるりと雪原を見渡し、看板ではなく微かに聞こえる低い地鳴りの様な音を発する音源を探し始める。
「・・・私も聞こえるわ。」
「・・・ホントだな・・・。」
二人も自分の周囲に視線を巡らせる。
そして三人が同時に見付けた雪原の異変は、