竜の目
□第五話・白い箱
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『死なないで死なないで死なないでッ』
少女が目の前のもう一人の少女にすがりつく。
『…。』
『やだやだやだ!名無し太までいなくなったら私どうすればいいの?!死んじゃやだぁ!』
泣きながら訴える少女の背中をさすり、名無し太と呼ばれた少女は静かに口を開いた。
『あたしは、もう死んだんだよ。』
『え、』
『いい?あたしは――――、』
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「うっめェエェェ!」
昼時の定食屋・シエルにルフィの歓声が響いた。
「はは、食いっぷりがよくて気分がいいな。」
店主や他の客も同様にニコニコと笑った。
「で、お前さんたちゃ海賊なんだって?名無し子が一緒だったから安全かと思ったら、変わった海賊だったんだなァ。」
「そうだな!ちっとも危ない感じがないところとかな!」
客が笑いながら言う。
「ところで名無し子はなんで海賊に?去年までは賞金稼ぎじゃなかったか?」
店内の注目が名無し子一点に集まる。
「蒼虹がグランドラインにあるみたいだからこれから入るんだ。だけど、おれ一人じゃさすがに…と思って。」
「グ、グランドラインだと?!!」
あっけらかんと言い放った名無し子に店内がどっとざわめいた。
「そんな危険な…!」
「今までだってそうでしょ?」
隣にちょこんと座っていたクアンが名無し子を振り返る。
「名無しの、名無し子にぃだってあそこがどういうところか知ってるでしょ!いくら名無し子にぃだって死んじゃうよ!行かないでよぉ!」
名無し子は苦笑してクアンの頭を撫でた。
「そうだ!止めとけよ!」
「あんたらも考え直した方がいい!あんなとこ…!」
「有名な海賊たちが何千と逃げ帰ってるんだぞ?!」
「みんな、ちょっと落ち着い、」
「うるさいわね!」
制止ようとした名無し子よりも早く制止したのはラルだった。店内がしん、と静まる。
「名無し子が決めたんだからいいでしょ?それに名無し子は決めたことを絶対止めないのだってみんな知ってるじゃない。」
「ラル…」
「でもラルねぇえぇ〜…」
「クアンも男のくせにぐずぐず言わない!名無し子を見習いなさい!」
「らってぇ」
「だってじゃない!」
ピシャリとクアンの発言を遮る。
「それに、絶対名無し子は生きてココに帰るわ。今までみたいに、何年かかったって。」
その声を聞くと、その場の客も、初対面のルフィ達でさえ、一番堪えているのがラルだと分かった。
「…、」
名無し子は返事を返せなかった。
何故なら、自分が取りに帰ったそのものこそが、ラルがその発言に至った確信だったからだ。
ね!とラルが名無し子を見て笑った。
第三者からは見えない目を静かに閉じて、眉をしかめて、
誰からも見える口角をあげて、
「もちろん。」
目の前の親友に二度目の嘘を吐いた。
「…。」
嘘を吐くには、それでことが足りたのだった。
ただ一人対してを除いては。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
ナミに断って、名無し子は席を立つ。
「おれちょっと行くとこあるから、みんな先に船で待ってて。一時間しないうちに行くから。」
「え、一泊くらいしてけばいいじゃない。」
「いや、いいや。初めから寄るだけの予定だったしね。じゃ、またあとで。」
名無し子が扉に手をかけると同時に、がたりとゾロが席を立つ。
「待て。おれも行く。」
「…つまんないと思うよ?」
「食後の運動の散歩がてらだ。つまんなくても構わねェ。」
「そういうなら。じゃ、行ってくる。」
ガチャン