竜の目
□プロローグ
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じゃらん、
「はいよ。」
じゃらり。
「どーも。」
両手を出して丁重に、差し出されたそれを受け取る。
「こりゃまた随分でかいの持ってきたな。」
「これでしばらくは仕事しなくてすむかな?はは。」
受け取ったものをカバンに詰めながら、黒いコートの男が笑う。
つられて無精ひげの男も笑っていう。
「あんた程目立つ格好した賞金稼ぎはどこ行ったって海賊につっかかれるだろ。」
「確かにその点面倒だよ、本当に。」
外の日差しは暖かく、コートを着る男はあからさまに浮いていた。
「名無し子さん程腕がたつなら海軍の幹部だっていけちゃうんじゃないか?入っちまえばいいのによ。」
名無し子と呼ばれた男は首を横に振る。
「…コートを脱ぐようじゃないか。」
「その目隠しもな。」
男は自分の目を指差して補足する。
「それはやっぱり困るなぁ…」
名無し子も布越しに自分の目に触れて呟く。
「はは、まぁあんたが軍にいたらいたでなんだかしっくりしない気もするがね。」
「あ!やっぱりトームさんもそう思ってるんじゃん!」
「はは。…まぁ休むのはいいが、仕事をとられないようにな。」
「え?」
「最近海賊狩りのゾロとか言うのが名をあげ始めててな、なにやらこの辺の海賊全部持ってかれちまうんじゃないかってみんな慌ててらぁ。」
「ゾロ、ね。」
名無し子はふーん、と大して興味なさげにきく。
「なんでも三刀流だとか。」
「刀が多いっていってもなぁ…まぁとにかく、うかうかはしてられない、のかな?」
「だな。」
かつり、
と名無し子はブーツの底をならして踵を返し、手をあげた。
「じゃぁまたくるな、トームさん。」
凛と美しい声を残し、外に続く戸を押す。
「あ、ちょっと待て!言い忘れた!ネルソン一味のことだが、」
びたりと戸に触れた手が止まる。
「最近音沙汰が無いと思ったら、グランドラインに入りやがったらしい!」
「…グランドライン…?」
「悪い事は言わない。もうネルソン一味は諦めな。グランドラインなんざ、いくらあんたがこっちで腕がたとうとも無謀過ぎる。一人働きの賞金稼ぎの域を脱しちまってる。」
名無し子は一度唇を噛み締めると、唸るように声を絞り出した。
「…わか、…た…、もう諦める…」
トームは安堵し、胸をなで下ろした。
「よかった、じゃぁまたなんか捕まえたら来いよ?」
「ああ、
…さよなら、トームさん。」
ばたん。
(トームさん、今度会うときは紙の上かお縄になった時になりそうだ。)
(一人働きの賞金稼ぎとしては諦めるが、絶対に奴を逃がす訳にはいかないんだ。)
一度大きく息を吸って、ゆっくり吐く、
(海賊として入っちゃおうか!グランドライン!
待っていろ!ネルソン一味っ!)
そして唇をきゅ、と結ぶと、"少女"は前を向いて大通りを歩いていった。