暗闇の中を永遠と歩く…。暗い空。暗い道。冷たい風。人影もない。こうして永遠と暗闇を歩いていると、影がないのに気付く。影がないのは、私自身が幽霊みたいな気分に惑わされる。このまま消えてしまいたい。本当に幽霊になれたらいいのに…。

ずっと歩いて行くと、細い裏路地を見つけた。こんな広い街に、こんな狭い場所があったんだと思った。そこにはゴミが散乱していた。私はゴミを踏みながら奥へと歩いて行くと、行き止まりに突き当たった。

この壁の向こうに道があったら…。

私は壁に吸い込まれるようにして脚を踏み出した。1歩、2歩…。壁に触れる位置まで近付いた。私は何故か不思議な気持ちになり、壁に触れてみた。

その瞬間、私は壁に吸い込まれてしまった。

…なんだか不思議な気持ちだ。躰が溶けていくみたい。このまま記憶も溶けてしまったら、私はどうなるんだろう…。

どうなってもいいか…。

私は静かに瞳を閉じた。


気がつくと、私は見知らぬ場所にいた。真っ暗な、樹が生い茂った湿った場所。

森…かな?

私は寝ていた躰を起こして立ち上がった。不思議に思った私は、自分の躰を見つめた。どうやら怪我はしていないようだが…。

服装が変わっている。

確か、半袖にジーンズを着てたんだけ
寝癖の様なボサボサの髪。鋭い目つき。少し潰れた様な大きめな鼻。標準よりは大きいだろうと思われる口。筋肉のついたガッシリとした硬そうな躰。年齢は…40歳近いだろうと思われる。

「歳なんかねーよ、どれだけ生きてるかも忘れた」

「…ぇっ!?」

心を読まれた?……そんな筈ないか。いや、私がそう思いたくないだけで、エスパーみたいな人は本当にいるかもしれない。
私は首を左右に強く降って、頭の回転を切り替えた。

「あの…ッ!此処は何処なんですか?私、壁に吸い込まれたと思ったら、いきなりこんな変な…湿った場所に来ちゃって」

真剣に見つめてくる茶色い瞳に、私は戸惑った。怖かった。全身が震えていた。震えた声で一気に話したけど、ちゃんと伝わっただろうか…。私は早く帰りたかった。家に帰りたい。ただそれだけ。

「あー…、じゃあ俺も一気に話すぞ」

おやじは面倒臭そうに頭をかきながらそう言うと、私に一歩近付いた。私は怖くて、一歩下がる。

「此処は森だ」

「…森」

「そうだ。そして嬢ちゃんは、壁に吸い込まれたんじゃなく、自分で望んで此処に来た」

「…自分で」

「そう。自らな」

私はオウム返しをする事しか出来なかった。

「嬢ちゃん、嬢ちゃんが何かを見付けない限りこの世界から出る事はない」

おやじが一歩近付く。私は一歩下がる。

「わ、私は…あの、あの世界に帰る場所なんてない」

震える声。拳を握り締め一生懸命反論する…怖いと悟られないように。

「ならこの世界でさ迷うんだな、幽霊みたいに」

一歩、一歩…。

「なっ!?何で私なの!?」

一歩、一歩…。

「俺が選んだのさ。嬢ちゃんならやり遂げる」

一歩、一歩…。

「……何を見付ければいいの?」

背中が木にぶつかる。もう後には引けない。おやじが迫って来る。でも…私は嬉しかった。「お前なら出来る」と言ってくれた人はいなかったから。

「嬢ちゃんが望んでる探し人さ」

おやじの台詞を聞いた途端、心臓が跳ねた。ずっと逢いたかった人に逢える…?

「あ、逢いたい…」

目から涙が流れた。でも私は自分が泣いている事に気付いてなかった。おやじが指で涙を拭う。

「逢ってこい、嬢ちゃんの逢いたい奴に」
そう言うと、私の躰が色とりどりのしゃぼん玉に包まれる様にして光始めた。

「なぁに、俺とはいつでも会える」

「おやじ……」

いい奴だったんだ…。

「御免、おやじ」

「神様だっつってんだろ。……また会おう!」

私はおやじを見つめて頷いた、その時、私は消えた。おやじが寂しそうだったのは、気のせいだったのかな…?


気が付くと、私は空に浮いていた。(見渡す限り、何処かの町みたいだけど)。私がそう思っていると町の人は皆私を見ている。

「……そりゃ驚くよね」

勿論自分でもかなり驚いていたが、冷静にならないといけないという気持ちが先走っていた。私はゆっくりと降下していき、地面に脚を付く。その途端、私を包んでいたしゃぼん玉が消えた。そして、私の光も消えた。周りの視線から早く逃れたくて、私は歩き出した。

「何処に行けばいいのかな?」

1人は凄く不安だ。不安を紛らわしたくて、私は1人言を呟いた。

「おーい、其処のべっぴんさん」

声をかけてきたのは、まんじゅうを売ってる白髪頭のおやじだった。

「これ、持って行きな」

「え?」

おじさんは、紙袋に詰めた沢山のまんじゅうを手渡すが、私は受け取れないでいた。

「でも、いいんですか?」

私が聞くと、おじさんは顔をほころばせて言った。

「お嬢さん、空から降って来たって、町中が言ってるよ」

私は少し優越感を覚えたが、急に恥ずかしくなった。

「……あ、有難う御座います」

軽く頭を下げると、おじさんは再度まんじゅうを差し出して来たので、受け取る事にした。

いい人だな…少し聞いてみようかな

「あの、私ここに来たばかりで、何処に行けば良いかもわからないんです」

するとおじさんは、腕を組みうんうんと頷いた。

「そうかそうか、だったら地図をやろう。これを見て行きたい所に行けばいい」

そう言うとおじさんは奥へと引っ込み、地図を持って来てくれた。

「有難う御座います」

私はお礼を言うと、地図を見ながら歩き出した。おじさんは手を振ってくれている。

「あんないい人ばかりだったらいいのに…」

地図には、この町を抜けると荒野に出るらしい。

「何か脚になる物を探さないと、厳しいかも」

周りを見回すが機械系を扱っている店はない。
「………野宿」

半ば呆れて呟くと、後ろから急に誰かに抱きつかれた。

「きゃあ!!?」

驚いて叫んだと同時に暴れる。

「俺だ」

相手の腕から解放されて、私はとっさに振り向く。

「おやじ!!」

私は唯一の知り合いに会えたのが嬉しくて抱き付いた。

「お前が困ってるだろうと思ってな」

「おやじ、おやじ…」

不安が爆発したのか、私の目からは一気に涙が溢れた。おやじは何も言わずにそっと私を抱き締めてくれた。


その後おやじのおかげでなんとかこの町の宿屋に泊まる事が出来た。

「宿屋なんてまだあったんだの?ホテルばかりだと思ってたよ」

上機嫌になった私は、宿泊している部屋を見渡しながら言った。

「此処はお前が知ってる世界じゃないぜ?嬢ちゃん」

「あっ。そうだったね」

少しショックだったけど、おやじがいるから少しですんだ。私はベッドに座った。

「…でもどうしておやじが此処にいるの?」

「神様。いやなに、お前に渡しそびれてな」

おやじが指笛を吹くと、開いていた窓から妖精の様な羽が生えた、人形が飛んで来た。

「きゃあ!!可愛い!何これ!?」

私は興奮して、人形を抱き締めた。

「最初よりは元気になったみたいだな。そいつはお前を助けてくれるだろう。いわゆる妖精みたいなやつだ。仲良くしろよ?」

「そうなの!?宜しくね!じゃあ早速洋服買いに行こう!!」

私は嬉しさの余り興奮を抑える事が出来ず、人形を掴んでおやじの手を引いて走り出した。

「…俺の話し聞いてたのか?」


おもちゃ屋に付くと、早速人形の洋服を探し出した。

「何がいいかなぁ…男の子だから格好良いのがいいよね」

私がそう言うと、人形は満面の笑みを浮かべて言った。

「俺、家も欲しいな!」

「OK」

私は人形が喋ったのを特に気にせずに探した。おやじの手を握ったまま。だって離したら、また消えちゃいそうだから。

「家はこれでいいよね?」

私は比較的1番大きな家を手に持った。

「俺、それがいい!」

「じゃあ決まりね。あと洋服は…」

私が洋服選びに真剣になっていると、おやじが手を握り返した。私は振り向き、おやじを見た。

「外見とのギャップがいいな」

「え…?」

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