X.novel

□BELOVED PERSON
1ページ/5ページ


「もしも僕がいなくなったらどうする?」
「え……」

あまりに何でもないような口調だったから、問い掛けの意味が、理由が、解らなかった。
今、色々大変な今この時に、そんなことを訊かないでほしい。とも思う。

「どうする、って言われても…実際なってみないことには」
「はぁ。ウヅキ君はからかい甲斐が無い」

からかってたのかこの人。
湛えた微笑と、態とらしいファミリーネームの使い方にむっとした。

「少し位取り乱して、先輩死んじゃうんですか?とか訊いてくれればいいのに」
「癌にでもなったんですか?それとも、ベッドに頭を打ち付けたんですか?」
「手厳しいな」

先輩は相変わらず余裕と優しさの漂う顔で笑っている。
喉を伝う慣れない感触に赤くなりながら、口を尖らせた。

「変なことを訊く、先輩が…っ、いけないんです」
「ふふ、ごめん。どうしても気になってね」

どうしてそこまで?
訊ねるより早く、シーツに投げた手に指が絡む。

「ねぇシオン」
「は……い」

青い、青い、海の様な眼。
釘付けにされる気分はまるで催眠術だった。

「さっきの続きだ。…僕がいなくなったら、どう思う?」
「せん…ぱ…?」
 
先輩が何を考えているのかは解らない。
ただ深い瞳の奥底に見える輝きは真剣で。
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ