進撃
□鉄のナイチンゲール
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調査兵団というと壁外遠征や巨人の討伐ばかりが印象づけられていて、そこに所属する兵は総じて死と隣り合わせの日々を過ごしていると思われがちだが、中には例外も存在する。
負傷兵の手当てを主とする救護班や装備品の調整を担当する技巧班、巨人から得られた情報を分析し対抗策を模索する解析班などがそれにあたる。
そのうちのひとつ、兵団本部で負傷兵の治療に従事する救護班に、鉄のナイチンゲールと呼ばれる班員がいた。
「ティア、手が空いたら奥の診療室へ行ってくれる?軽傷の兵を待たせてるから」
「わかりました」
先輩兵に頷きを返したティアは、目の前に横たわる兵の足首から膝にかけて手早く包帯を巻き終える。
「これで完了です。添え木を当てて固定したので痛みは多少軽減されたはずです」
「……すごいな、本当に痛みが消えた。どうもありがとう」
「あとは傷口が化膿しないように消毒を続ける必要があるので、また明日のこの時間に来て下さい。
くれぐれも患部を刺激しないように」
「ああ、わかった。
それにしてもティアの処置はいつも早くて的確だな。これで俺たち前線に立つ兵士も安心して怪我できるよ――ってこんなこと言ったら怒られるか」
「いえ。それでは失礼します。お大事に」
肩をすくめた負傷兵に一度頭を下げただけでティアはすぐさま奥の診療室へと向かう。
残された男性はぽりぽりと額を掻いて苦笑いを浮かべていた。
鉄のナイチンゲール、ティア・マクドール。
その肌は透き通るように白く、清楚で可憐な容姿は男なら一度は懸想するほど。
その上医学の知識に長け、傷の治療を任せれば瞬く間に的確な処置を施す。若手でありながら救護班の中心的役割を担う人物だ。
このように一見完全無欠であるように思われるティアには、ひとつ大きな要素が欠落していた。
さながら鉄仮面を被っているかのような感情表現の少なさ。
そう、彼女には全くと言っていいほど愛想がなかった。
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