進撃
□Fall in Love!
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「……わかんねえのか?」
束の間の沈黙の後、兵長が低い声で呟いた。
普段の刺々しさが消えた少し戸惑ったような口調で。
「わかりませんっ……私は……兵長に憧れて調査兵団に入ったのに……」
涙が溢れそうになる目元を手の甲で覆い隠す。
幼い頃に居住区が巨人に襲われ、両親を奪われた。
その後避難した開拓地でも巨人の侵攻に怯える日々だった。
そんな中、生きる希望を与えてくれたのは壁外調査から帰還した調査兵団の姿。
鮮烈だった。
巨人に遭遇する危険を承知で壁の外へと挑む勇敢な兵士たち。
その先頭に立つひとりの小柄な男の人。
沸き上がる民衆の中、表情ひとつ動かさず真っ直ぐに前を見据えて突き進んでいく彼から目が離せなかった。
風に揺れる深緑のマントの背には白と黒の重ね翼。
それが自由の翼を意味するものだと知ったのは後になってからだが、このとき、私の目には確かに彼の背中に翼が見えていた。
大きな翼を広げて今にも空を飛んでいきそうに思えたのだ。
彼みたいになりたい。
彼のように、強く、誰よりも自由に。
「……ティア」
しゃくり上げる私に、兵長は椅子から立ち上がって近づいてきた。
情けない顔を見られたくなくて俯いたものの、顎を持って強引に上を向かされる。
「おまえに素質がないとは言ってない。むしろその逆だ。
見込みがあるからこそ大事に育てたいと思ってる」
「だったらもっと訓練させて下さい!一日も早く壁の外に出られるように!」
鼻をすすってそう言うと兵長はわかりやすく吐息を漏らした。
彼には珍しく悩んだ様子でガシガシと頭をかきむしる。
「いい加減わかれよ」
かき上げた前髪の隙間から私を見つめる瞳は、いつになく熱を帯びていた。
「おまえを外に出したくねえんだよ」
「…………え?」
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