進撃

□Fall in Love!
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人類最強と謳われるその人に憧れて、私は調査兵団に入団した。


……のだが。




「こんなはずじゃなかった」


モップ片手に吐息を漏らす私の名はティア・マクドール。調査兵団の新米兵士だ。

辟易しながら兵士長室の床を磨いていると背中から鋭い視線が突き刺さる。


「何ぶつぶつ言ってやがる。口を動かす暇があったら手を動かせ。
そこはちゃんと拭いたのか?埃が残ってるぞ。水拭きした後はちゃんと乾拭きしろ」


執務机に向かいながらも目を光らせているのはこの部屋の主であり調査兵団の兵士長でもあるリヴァイ兵長。

彼こそが私の憧れの人物である。否、憧れの人物だった。


「ティア、そこが終わったら本棚だ。間違っても本の順番は変えるなよ」


兵長が顎でしゃくった先には本の種類毎にきっちりと整頓された本棚がある。そこの埃を掃えということだろう。

どういうわけか私は入団してすぐに兵士長室のお掃除担当に任命されてしまったのだ。


潔癖で知られるリヴァイ兵長。

そもそも普段からこれだけ小奇麗にしているのだから、兵士を使って掃除させる必要なんてない気がする。

私自身掃除が得意なわけでもないし、むしろ嫌いだし。

案の定近づいた本棚には埃などほとんど付着していなくて、堪え切れなくなった私はキッと兵長に顔を向けた。


「兵長!私ももっと実戦的なことを学びたいです!
立体機動の扱いとか、索敵陣形の兵法とか!」


今の時間、他の団員たちは訓練場で立体機動装置を使っての戦闘訓練に励んでいるだろう。

私ばかり掃除だの事務処理だのと雑用を押しつけられて訓練に参加できずにいる。


同時期に入団した仲間はもう既に実戦に出ていた。

同期で壁外調査に一度も出ていないのは私だけだ。

もっとも、その同期ももう半数近くが戦死したのだけれど。


「……おまえにはまだ早い」

「どうしてですか?私も闘いたいです!」


訓練兵時代は同期生の中でも成績は常に優秀だった。

卒業時には上位10位こそ逃したものの、そこには憲兵団ではなく調査兵団を志望していた為順位に拘っていなかったという要因もある。

他の団員に引けを取っているとは思わない。


「どうして私だけこんな扱い受けなきゃいけないんですか?
私だって兵長みたいに巨人を倒したい……みんなの無念を晴らしたいんです!」


巨人の餌食になって死んでいった仲間たちを思うと、悔しくて涙が滲んだ。

兵長を前に泣きたくなんてないのに。




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