ナルト置き場

□始まり
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「…………」
 
また沈黙。
 
 
「あ…あのさぁ……」
 
「何だよ!」
 
キバはもはやベンチに座っていない。
立ち上がって女と距離をとり、全神経を集中させて警戒していた。
 
いや、正確に言うと目の前の人物は女ではなかった。
 
キバの異常な程の警戒心を受けながら、その人物は両手を上げる。
 
「何もしねーし、何も持ってねーって」
 
「どうしてここにいる!」
 
「キバに会いに来た」
 
「はぁ?!」
 
会話が微妙に成り立っていない。
 
「さっきも言っただろ。会いに来たって」
 
「今度は何が目的だ!」
 
警戒を緩めようとしないキバ。
 
「だから、キバに会うのが目的」
 
いい加減わかれという風に言い返された。
 
「おまえ…誰のせいで俺と赤丸がこんな怪我をしたと……」
 
「だって、命令だったし。忍は言われた任務は絶対にこなす、そうだろ?」
 
「……」
 
確かにそう教わった。
こいつの言っている事は間違っていない。
 
だが、だったら――……
 
「何でここに来たんだよ!また戦いに来たのか?!サスケはもう木の葉にはいないぞ!おまえらのせいでな!」
 
一気に叫んだら、傷口が少し痛んだ。
 
キバの台詞を黙って聴いていた人物は、ちょっと待ったというように手のひらをこちらに向けた。
 
「それだよそれ。さっきからおまえおまえって……名前で呼んでほしいなぁ〜」
 
「おまえの名前なんか知るか!」
 
「えっ……知らないの?」
 
ちょっとショックを受けたようだった。
それでもキバは言い続ける。
 
「敵の名前なんか知らないし知りたくもない!」
 
そう言えば、こいつは何で自分の名前を知っているのだろう。
仲間が呼んでいたのを聴いて覚えたのか…?
 
 
「じゃあ今覚えろ。左近。俺の名前は左近だ。2回も言ったんだ、覚えてくれたよな?」
 
「知るか!」
 
 
「大蛇丸とは手を切った」
 
「……は?」
 
いきなりそう暴露されて、キバは面食らった。
 
「…というか、手を切られたのか。まぁ、負けた訳だしな。ただ、どんな状況だったにせよ、怪我をさせたのは悪いと思ってる」
 
本当にすまなさそうな顔で言ってくるので、あんまりカッカしていてもしょうがないと考えたキバは、とりあえず警戒心を少しだけ解いて落ち着いた。
 
「んで、俺に会って何する気だったんだ?わざわざ女装までして…」
 
左近は立ち上がり「似合うか?」とその場でくるりと回ってみせ、キバに近づいた。
 
「女装したままじゃ何か格好つかないけど…まぁいいや」
 
「?」
 
一応少しは警戒しているが、戦いにきたのではないらしい事がわかったので、左近が近くに来てもキバは離れなかった。
 
――と、左近はいきなりキバの腰に手を回して引き寄せると、そのままキスをした。
 
「………んんぅっ?!」
 
一瞬、自分が何をされているのかわからなかったキバだが、急いで左近を押し返して唇を離した。
 
「なっ…なっ…何を……」
 
上手く舌が回らない。
 
左近はというと、キスを中断されて残念そうにしていた。
 
「何って、これが忍の告白の仕方なんだろ?」
 
「はぁ?!」
 
そんな事、キバは今初めて聴いた。
 
「だって、前に大蛇丸がこうだって……あっ、今はもう切れてるからな」
 
――それって…絶対騙されてる…。
 
そう思ったキバだが、あえて教えない事にした。
というか、何気にファーストキスを奪われたのだ。
ここは怒るところだろう。
 
だが、不快ではなかった事にキバ自身驚いていた。
 
 
「って言うか、何で俺がおまえに告白されなきゃならねーんだよ!」
 
最もな質問である。
 
左近はというと、また名前を呼んでくれなくて少しいじけたような顔をしていた。
 
「だって、キバが好きなんだもん」
 
「なっ……っ」
 
あまりにストレートに告白され、真っ赤になるキバ。
今まで誰かと付き合った事もなければ、告白された事もない。それどころか告白した事もないのだから、仕方がないだろう。
 
だが、キバは少し落ち着き、冷静に考えてみた。
もしかしたら、油断させて木の葉に忍びこみ、また何かをする気かもしれない。
三代目が殺された時のように…。
 
今回の事で、少しは大人になったつもりだ。
もう二度とあんな思いはしたくなかった。
 
 
キバは感情を表に出しやすいが、顔にも出やすい。
考えている事、疑っている事は手にとるように左近にはわかった。
 
 
「疑ってんのか」
 
「……あぁ」
 
キバは素直に答えた。
ここで嘘をついても何もならない。
 
ふむ、と左近はしばらく考え事をしているようなそぶりをみせ、聞いてきた。
 
「何を疑ってる?」
 
「全部」
 
即答した。
 
「おまえを好きだと言った事もか」
 
「…あぁ」
 
左近は「そうか…」と言い押し黙ってしまった。
 
キバは迷っていた。
どうしても、左近が自分を騙そうとしているようには見えなかったからだ。
大蛇丸と手を切ったというのも、本当なのかもしれない。
 
だが、今のキバにはそうだと言いきれる自信もその根拠もなかった。
 
 
 
 
しばらく考えた後、キバは思いきってある提案をした。
 
「おまえ、ウチに来い。それで俺がおまえを信用するかどうか決める。俺はともかく、家族はほとんど上忍だからそうそう下手な真似もできねーだろ」
 
暗に、あやしい動きをしたら容赦しないぞというわけだ。
このままこいつを木の葉の里に野放しにしておくより、この方がいいと思った。
 
左近はというと、キバのその提案を聞き終えた瞬間、満面の笑みで抱きついてきた。
 
「ちょっっ?!」
 
またまたいきなり抱きつかれたキバは一瞬固まるが、すぐに左近を押し戻した。
 
「…おまえ、嬉しいのか?おまえを見張るって言ってんだぞ」
 
「あぁ。元からキバの家に居座る気だったし」
 
着物の襟を直しながら、左近は予想外の事をさらっと言ってのけた。
 
「は…?元から…?」
 
「だって金ないし、野宿やだし」
 
「いや、そういう事じゃなくて…何と言うか…んと……」
 
キバは何と言っていいかわからずまごまごしてしまった。
 
 
「んじゃ、そーゆーことで。俺、先に家に行ってるから、見舞いで誰か家のもんが来たら適当に説明しといてくれな。キバはちゃんと退院したら帰ってこいよ。それまでは毎日見舞いに行ってやるからさ」
 
……何だか妙な展開になってきた。
 
左近は「じゃ〜後でな〜」と言いながら走って行ってしまった。
 
 
 
 
「…と…とりあえず、これでいい…のか…?」
 
キバの問いに答える者はいなかった。
 
 
 
 
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