小説(ナタル&マリュー中心)

□最初で最後の軍規違反
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ドミニオンのブリッジに、よくとおったが響き渡る。
退艦命令だった。
確かに自分で発したものに違いはないのに、ナタルはそれをどこか隔絶された意識の中で聞いていた。
それは一旦声に出して掲げれば、これまでの迷いが嘘のように消えていった。
妙に頭が冴える。
今の自分が為すべきことを瞬時に計算し、素早く実行に移す。
その先に待つのが死であることは、とうに理解していた。
それでも、その手を休めることはなかった。



ぼろぼろに撃ち抜かれた身体。
その頭の中では、これまでの人生が走馬灯のように駆け巡っていた。
以前の自分では、このようなことを言うとは、考えもつかなかっただろう。
ナタルは自嘲気味にフッと笑った。


軍人の家系に生まれた身。
士官学校に入るのは当然。
首席なのは当然。
そして、軍人になるのも当たり前のことだった。
もちろん相応の努力はしたが、それは生まれたときより定められており、そこに迷いが入り込む余地はない。
ナタル自身、その生き方に何等疑問を抱くことはなかった。
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