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□彼女と映画に来たならば
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(うごわあああああやめてくれぇえええ!!)
一護の心は先刻と違う意味で絶叫した。何故ならば。
主人公たちのピンチに突如舞い降りた神が、敵兵の頭を粉砕して回ったからだ!
まるで花瓶か何かのように割れた頭の破片が四方に吹き飛ぶ映像に、一護は頭を抱えた。
(す、すまねぇ井上!そりゃR15だから残虐表現のひとつや二つはあると思ってたがこれほどグロいとは思わなかったんだ!許してくれ井上〜!)
案の定例のカップルの女は男にしがみ付いて固まっている。
織姫も怯えてるんじゃないかと恐る恐る目を上げようとした一護は妙な音に気が付いた。
かさかさっ。ぱくん。
(うぉ!?こ、このシーンで食ってるしっ!!??)
そう、織姫は件のシーンにじいっと見入りながら平然とポップコーンを口に入れていたのである!


その後のクライマックスシーンは、更に凄絶だった。
スローモーションがふんだんに使われ、繰り広げられる血で血を洗う死闘。
あるものは真半分に斬られ、またあるものは破砕され、血しぶきを上げて四散する肉体。
それらが3Dゆえの迫力で描かれ、それはもう美しくも恐ろしく。

思わず見入ってしまった一護ではあったが、左から聞こえたあの女の「ひっ!」という悲鳴に集中を破られ、はっとまた織姫を思いやった。
だが、彼女はまたもじいっとスクリーンを注視しているばかりで、怖がる様子も目を背ける様子も見られず。



「・・・・・・」
「・・・・・・」

エンドロールが終わり明るくなった場内で、一護と織姫はまだ座ったまま。
周りの観客達が席を立って出口へと向かって行くことにようやく気が付いた一護は、飲み物カップを手に立ち上がりかけ、気まずげに織姫に言った。
「すまねぇ井上」
「え?」
「ヤ・・・まさかこんな映画だと思ってなくてよ・・・」
「??こんな、って?」
目を瞬かせて不思議そうにする織姫を促し立ち上がらせ、出口へと向かった。


途中、一護の左側にいたカップルの姿が目にとまる。
「もー、ひどいよっ○○ぅー!すっごく怖かったよぉーー!」
オトコの腕にしなだれつきながらも文句を言う女に、男は頭を掻きながら答える。
「ごめんごめん、でも迫力あったろ?」
「ありすぎだってばぁ!もー夜眠れなくなっちゃいそうだよぉー!」
「大丈夫、怖くないように俺がずっとついててやるから、な?」
「やーん、○○のばかぁ〜♪」

(・・・あ、あれか?ああいうための映画だったのかこれは??)
一護はさりげなく織姫を庇いながら、唖然とカップルを見送った。
しかしそれは、まだ付き合い始めの自分たちには到底越えられない高いハードルであり、むしろ逆効果になりそうな技でもあり。
とにかくこの後どうやって織姫と会話しようかと一護はまた頭を抱えるのであった、心の中で。



「ねぇ黒崎くん?」
「うん?」
外の空気を吸って落ち着こうと辿りついた公園で、織姫はやっともう一度疑問を口に出来た。
「どうしてさっき、あたしに謝ったの?」
「あ・・・あー・・・」
織姫を促しベンチに腰かけた一護はバツが悪そうに地面を見て、それから重たい口を開いた。
「イヤ・・・あんなとんでもな映画に誘っちまって、悪かった、と思ってよ・・・」
「ええっ!?なんで??」
織姫のリアクションは心底驚いている、という風。
「ヤ、だから、あれかなりグロい、っつーかスプラッタなシーンあったろ??まさかあれほどとは思わなくてよ・・・すまねぇ、気持ち悪い思いさせちまったよな?」
織姫の驚き方が気になりながらも、ちまちまと言い訳する一護に織姫は大きくかぶりを振った。
「ううん!?だってあれ、ちっとも現実味なかったし!」
「へっ!?」
予想外の織姫の答えに妙な声を出す一護に、織姫はなんだそんなことか!という感じで勢い込んで話し始める。
「だって、頭はあーんな風に割れないし!グリムジョーが虚閃でメノリちゃん吹っ飛ばしたときはもっとなんていうかどろりんっって感じだったから!」
「うえおえええ!?」
井上おまっなっなんつーもの見てるんだ!
一護の心のツッコミも知らず、織姫は言葉を続ける。
「だから、わー流石神様、ありえないやっつけ方するんだなー、みたいな?斬るのだってあんなにすっぱり行きませんって!」
「そ、そう、なの、か?」
「だからね、うわぁ最近の映像技術ってこーんな風に出来るんだなー、ってそればっかり楽しんじゃったよ!様式美とでもいいますか!!」

心の底から楽しそうなその声音に、一護はほっとすると同時にどこかがっかりしている自分に気が付いた。
「そ、そうか、楽しかったのか?」
「うん!とっても面白かったよ?ホントに映像綺麗だったし、ね!?」
(あー・・・そうか、ホントにああいうの怖がったりしないんだなお前・・・)
そう、一護はさっきのカップルを見たときから心のどこかでちまっと期待してたのだ。織姫があれを怖がってて、自分を頼ってくれることを!
「そっか、楽しかったなら、よ、よかった、ぜ・・・?」
言葉とは裏腹に沈んだ調子の一護の声。逸らされる視線。


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