押入れ

□光の木
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アーケードを抜けると、頭と頬とに急に吹きつける冷たい風。
目の前の光の木々は青く細長く、暗くなった空に向かって。
「こういうツリーもいいよねぇ・・・」
「ああ、面白いよな。下の台のところがちゃんと幹みてぇに見えるし。」
「あっホントだね!わー光の幹だね!」
初めて気がついたみてぇに声を上げた井上は、続いて「くしゅん」とくしゃみする。
「大丈夫か?寒いんじゃねぇか?」
「だ、大丈夫っすよ、ちょっと風が鼻をくすぐっただけっす!」
そんな風に大急ぎで言い訳するのは、まだここに居たいから、だな?

「悪いな、ちょっと手、放していいか?」
そう言うと一瞬こっちみてから笑って頷いたけど、目だけは寂しそうなことまるわかりの色をしていて。
それがばれないようにと、一人で1、2歩だけ前に出やがった。
ああ、まったくこいつときたら。


「井上」
そうさ、彼女が振り向くより早く仕掛けるのなんか、簡単なことで。
「ふぁわわわわわ!」
頓狂な声を出したって、もう井上はすっぽりと俺の着ているコートの中。

「これならちったあ暖けぇだろ?」
「・・・」
俺の胸とコートとに包み込まれて俯いてる顔はよく見えねぇけど、きっと真っ赤。
「ん?別に変わんねぇか?」
「う、ううん!?あ、あああ暖かいっていうか!・・・あ、熱いくらい・・・かも・・・」
「そりゃいけねぇな、やめとくか?」
「!あっあのっあの!!」
彼女の手が、コートの端を押さえながら井上を抱いてる俺の手を捕まえる。
「なんだよ、どうしたいんだ?」
「・・・こ、このままが・・・いい、です・・・」
消え入りそうな声、だけど俺は大満足。
「よく言えました」
とコートの上から彼女を抱きしめる力を強めた。


そうして二人でじっと青く煌くすらりとした光の木を眺めて。
やっと歩き出した駅までの道は、まるで二人きりみてぇに静かで。
だからよ、まだコートの下にしまい込まれてる格好の井上が小さく
”今日の黒崎くんはちょっとイジワルだよ・・・”
なんて呟いたのも、聞き逃す筈ねぇだろ?

イジワルついでに、そんな生意気なこと言う唇なんざ塞いでしまおう。
あの駅前の明るさに見つかる前に、引き止めて捕まえて。
いやもうすっぽり捕まえちまってるんだから、これまた簡単なこと、だよな?

目を閉じればイルミネーションの残像が星みてぇに浮かぶ、12月の宵。
可愛くて、いじらしくて、なんかしちまいたくて堪んなくなっちまうお前に、最愛のキスを。


    end
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