押入れ

□特別な日
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ぴりりっと6月のカレンダーを破る。
明日はもう7月。
綺麗に並んだこれからの日々の中で、どうしても目が行ってしまうたったひとつの日付。


<特別な日> 〜お付き合い初めVer.〜


どうしよう。

それは本来唯の数字であって。
何の変哲も無い黒ゴシック体には色気も何もない筈なのに。

なのに見ると胸が、きゅってなってしまうの。


どうしよう、どうしよう。
あとこれしかないんだよ?
まだなぁんにも準備してないのに?

じゅ、準備って何すればいいの?あたし??
そっそれに、別に何か、特別約束した訳じゃないんだし??
そう、まだ何も・・・って、’まだ’ってなぁに?うわーうわーうわー。

約束してくれたりは・・・しない、かな?
だって思い切り平日だし?
きっとおうちでお祝いしてもらうんだろうし??

・・・あたしと何か、なんてこと、考える訳ない、かも・・・?


ぶんぶんっと首を振る。
ううん、それでも、やっぱり、どうしても。
お祝いしたいの、大切なその日を。
そう、例え特別な約束出来なくても、心を込めて伝えたいの。
「お誕生日、おめでとう!」って。


例えば小さなプレゼントに、想いを込めてカードつけて。
帰り道で渡すだけでもいいじゃない?
優しい黒崎くんはきっと、ちょっぴり驚きながらも
『お、おう。・・・ありがと、な』
なんて言ってくれるよね?あのオレンジ色の頭をガリッと掻きながら。


うん、それでいいよね。
だって、お付き合いするようになって初めてのお誕生日だから。
せめて学校の帰り道だけでも、あたしがいっぱいお祝い、したいの。
大切で大好きなあなたのお誕生日を。



リリン、と電話があたしの思考を妨げた。
受話器を取れば、あたしの一番聞きたいその声が。

『井上?俺・・・黒崎だけど』
「わわっ黒崎くん??どうしたの??」
『ンな驚かなくても・・・』
「あっごめん!ちょっと考え事してたもんだからね?」
『・・・妄想の間違いじゃねぇのか?』
「ちっ違うもん!!」
『・・・まあいいや・・・あのな?』
「?」
『夏休み前の週は、部活あるのか?』
「?いつもと同じだよ?月水金はー部活の日♪」
『そっか・・・その週頭って短縮授業だったよな?』
「へ?あっそうだったっけ??」
『お前ちゃんとプリント読んでるのか?』
「よ、読んでますぞっ?!プリント読みにかけてはクラスでもピカイチな井上サンを知らないとはモグリですなっ黒崎くん!」
『ンだよモグリって・・・兎に角、テストも終わってせいせいした後だから・・・学校帰り、出掛けねぇか?部活のねぇ日でも』
「えっ!!」
『あーだから・・・ど、どっか・・・お前の好きなとこでも、考えておけ、な?』
「う、うん!あっでもでも!黒崎くん行きたいとこあるなら、それがいいと思うの!」
『あー・・・ま、まあ、俺もなんかあれば言う、から・・・』
「うん!なるべく黒崎くんが考えてね?だって・・・」

7月はお誕生日あるんだから!
と言い掛けて慌てて止めた。
だって・・・こんなに前から言っちゃったら、もったいないじゃない??

『だって?』
「だ、だって・・・あっあたしね!くっ黒崎くんがどんなとこ好きか、知りたいから!ね!!」
『そ、そうか??・・・・・・じゃ、場所はともかく、そういうことで・・・また明日な』
「うん、うん!また明日ね!ありがとう黒崎くん!!」


受話器を置いても気持ちはわくわく。
だって、黒崎くんと、黒崎くんとお出かけだよ?
誕生日じゃないにしたって、その近くだよねきっと??
うれしいな、うれしいな、うれしいな!!
そうだ!カレンダーに印つけちゃおうっと!!

えっと・・・7月の、夏休み前の週頭で・・・月水金以外、だから火曜日かな??

カレンダーをなぞって探すあたしの指はぴたっと止まって、そして。
そのまま震えてしまったの。

だって指が指してるその数字は。
見るだけできゅんとなる、あの黒ゴシック体の。

”7月15日”


       end
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