応接間

□聖夜はツリーの下に
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網膜に映るものを否定したいなんて、思ったことあっただろうか。
でも今の俺はまさにその只中にあった。

通りから少し引っ込んだそのツリーの傍には二つの影。
このクリスマスムードに酔ったバカップルだろう、と目を逸らしかけて気がついてしまった。
半分オトコの影になってはいるが、見間違える筈はねぇあの胡桃色の髪、あの体付き。

井上?井上、だよな?

意思と反してその二人に釘付けになる俺の網膜に映る、信じられねぇ光景。
ンな、ンなこと・・・あり、なのかよ??
井上が、井上が!見たこともねぇ野郎と・・・き、キス、してる、なんて・・・



<聖夜はツリーの下に>



二つ向こうの駅の、最近リニューアルしたショッピングモール。そこはこの12月になってちょっと話題のスポットだ。
何でかっていうと、「ツリーぺージェント」と称して通りのあちらこちら、そして広場に至るまでそれぞれ趣向を凝らしたクリスマスツリーが山ほど飾られているらしくて。
「もーームードばっちり!今年のクリスマスかーわいい女の子と過ごすならこれで決まり!って感じだそうだぞっいっちごー!健全な高校男子としてはこれを利用しない手はないってことでっ!」
日ごろから喧しい啓吾がここぞとばかりに捲くし立てる有様だ。
「あんまりがっついてると、いくら周りがロマンチックでも女の子にヒかれますよ、浅野さん」
「ってまた敬語なのぉ??」
水色の敬語攻撃にいつもはここで挫ける啓吾だが、今日は違っていた。
「いいのだ、お前のようないつでもうはうはオトコなんぞ誘ってはいないのだ!一護ぉ〜!!さあっ幸せなイブを目指して一回下調べに行こうではないかラブラブページェントへ!!」
「らぶらぶ・・・って、単にツリーがあるだけなんだろ?」
「ちーちっちっちぃ、分かってないねぇ一護くん?ツリーの中にはだねぇ・・・」
と言いかけていきなり言葉を止め、にやつく啓吾。
「おおっとぉ〜。こんなオイシイ話簡単に教えてはやれないなぁ?知りたければ一護!俺と一緒にレッツツリーページェントぉ!!」
「って別に知りたくねぇし」
「ええええ〜そそっそんなこと言わないでよ一護さまぁーーー!!下調べしないとマイ女神井上さんを誘って楽しいイブを、って計画がぁあああーーー!!」
「なんでそこで井上だよ?」
情けねぇことについ反応してしまった俺。
「あれ?でも井上さんは・・・」
何か言いかける水色。
「?な、なんだよぉ水色ぉ?俺の誘いじゃぁ井上さんはのってくれない、とでも言いたいのかよぉお?夢くらいみたっていいじゃあないのぉー!?」
「浅野さんがどうこうじゃありませんよ?井上さん最近、カレシ出来たんじゃないかって噂だからね。イブはもう予定ありじゃないかと思っただけで。」
「なっなななな!なんですとぉおおおーーー!!み、水色っそれどういうことだよぉおお!!」

啓吾がいてよかった、とこの時ほど思ったことはねぇ。
啓吾の叫びがなければ、俺どんなリアクションしちまったかわかんねぇから。

「まぁ、ホントかどうかはわからないんだけどね?井上さんが、知らない男と二人で仲よさげに歩いてるのを見た、って話を聞いただけだから。」
「し、知らないオトコぉおおーー!?我らがアイドル井上さんがそんなどこの馬のホネともわかんない奴とい、い、いっしょにぃいい??」
「手を繋いでた、とか、うれしそうに笑いあってた、とかって噂も耳にはしてるけどね?」

やめろ、もうやめてくれ。
そんな根も葉もねぇ話、聞きたく、ねぇ。

湧き上がるもやりとするものに心が囚われそうになる。

「ノォオオオオオオ!!お、終わった・・・お、俺の青春・・・」
「噂だよ、あくまでね。でも火のないところに・・・っていうからね。覚悟、しといたほうがいいかもよ?」
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