応接間

□そらと秋桜
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そらはいつも、高くて遠くて。
神無月ともなれば更に深くあおく果てしなく。


<そらと秋桜>


見上げるは秋桜(コスモス)。
白に赤に、ピンク色に。
その長い茎の先に鮮やかに。


「きれいだなぁ・・・」
一面の秋桜にうっとりと見惚れる長い髪。
「ああ、きれいだな」
答えて足を止めるはオレンジ色の髪。

「気持ちいいねぇ、こんなにお天気だし」
「そうだな」

見渡すそらには雲ひとつなくて。
「あ、見つけた、お月様」
檸檬の形の月は、薄青に溶けることなくひとり白く浮かび。
「・・・今日はひとりぼっちだね・・・」
「・・・ってそれ、雲がねぇって意味でか?」
「うん・・・あっでもでも、そら独り占め、って訳だねお月様?やったぁ一人勝ち!?」
「そーゆーもんかぁ?」

自分の言葉に笑う顔がうれしくて、つい見惚れてしまう。思わず頬がゆるみながら。

その可笑しな発想さえも可愛らしくて。その後の恥ずかしそうな笑顔さえ眩しくて。


月に似ていると思ったのはいつの日だったか。

花に似ていると思ったのは今も変わらない。



「そろそろ行くぞ?」
「あ・・・う、うん・・・」
彼女がこんな風に口ごもるのは、別に何かしてみたいことがあるとき。
「なんだ?もう少し見て居てぇのか?」
「え、えへへ・・・ええとね?ちょ、ちょっとだけ、あの秋桜の中に入ってみたいなぁ・・・なんて・・・」

白く華奢な手をきゅっ、と握る、ごつごつした頼もしい手。
「えっあっ??く、黒崎くん??」
「行くぞ?井上。」

手を引いて踏み込む白、赤、ピンクの花の領分。
「埋もれちゃいそうだねぇ」
「お前が小っちゃいからだろぉ?」
「むーーー、でもこの方が楽しいですぞ?」
「負け惜しみかよ?」
「違いますぞ、だってこうすると花がそらに浮かんでるみたいで綺麗だから。」

立ち止まってしゃがみ込む二人の目には、薄青のそらを背景に輝く秋桜。
緑の茎も、細い葉も、白い赤いピンクの花の色も際立って。
「なるほどな」
「なるほどですよな」
「ンだよそれ」

その景色を更に楽しもうとぐるりと周りを見渡した彼女の声。
「黒崎くん!こっち見て、見て!?」
「どうしたんだ?」

「ここからね、こうやって見てね?」
頬がくっつきそうな程近くに寄って、彼女の細い指の差す先を見通せば。

そらの青。
ピンクの秋桜。
それから、それから、白い月。
秋桜に寄り添うように、護るように、誇らしげに。


「一緒だね」
「一緒だな」


どちらからともなく手を伸ばして再び握り合った。
指を絡めて、しっかりと。
もう離れないと誓うように。


そう、気が付いたから、分かったから。

寂しかったのは月。
見上げていたのは秋桜。
どんなにとおくに離されてしまったようでも、
大きなそらの下では、いつも繋がって、いつも一緒。


     end
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