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□彼女と映画に来たならば
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「黒崎くん、結構人が入ってるね!」
「あー、そうだな。そこそこ評判みてぇだからな」
「さっすが黒崎くんオススメ映画だね!」
「ヤ、オススメ、つか、ちょっと映像綺麗そうだったから観てみたかっただけなんだけどな」

そう言いながら可愛い彼女、井上織姫にポップコーンを渡すのは黒崎一護。
「わぁ、ありがとう黒崎くん!いくらだった?」
言いながら財布を出そうとする織姫を押し留めるように一護は言う。
「いいって。今日はなんか俺の趣味につき合わせちまったみてぇだから、よ。」
「そんなことないよ!この映画、衣装がとってもかっこいいんだってね!あたしもそれが楽しみだし!」
にこにこと楽しそうにしている彼女を見て、一護の顔も綻んだ。


  <彼女と映画に来たならば>


こんな風に言ってくれるなら、よかった。そう一護は思った。
まだ付き合ってから3回目のデート、映画を観るというのはお定まりのコースではあるが、選ぶものをそれなりに気を遣わないとならないんじゃないかと一護は考えていたのだが。
「ええっ!?黒崎くんが観たいのがあるなら、それにしようよ!!」
そう握りこぶしを固く握って勢い込んで言う織姫に押され、R15指定のついたこの映画、”インモータルズ”を観ることになったのである。

一護の心配はひとつだけだった。
(頼むから、あんまエロっぽいシーンはない方向であってくれ・・・!!)
まだ経験の全くない二人にはそんなシーンは刺激的過ぎることは明らか、というより一護は自分がそういうのに興味があってこの映画を観たかったのだと織姫に思われるのが嫌だった。
(ま、まあ、出てくる女が巫女って時点で大丈夫だとは思うんだが・・・)

そう、この映画の副題は”神々の戦い”。
おそらく戦いのシーンで斬られた腕かなんかが吹っ飛ぶとかなんとかがあってR15指定になってるに違いない。
一護は再び自分を納得させながら、織姫の左隣に腰を下ろす。

一護の左、1つ席を空けた先には、一組のカップルがやってきた。
「神々の戦い、なんてちょっとロマンチックよね〜」
「だろ?だからこれ、オマエと観たかったんだよ」
人目も憚らずべたべたといちゃつくその様子が織姫にも見えてしまうんではないかと冷や冷やしたその時、場内が暗くなり予告編が始まった。


3Dのその映画の映像は美しかった。
輪をかけて素晴らしいのは、登場人物の肉体美。
鍛え抜いた強さと男の魅力を存分に匂い立たせるようなその雄姿に、左側にいたカップルの女の方がため息を漏らした。
「やーん、素敵ぃ・・・」
それを聞いた男の方がムッとしている雰囲気を察知した一護は、右隣の織姫を一瞥した。
織姫もまた、半裸の男達が映し出されている画面にうっとりと見入っているように見えて、急に不安が広がる。
(ヤ・・・お、俺だってもうちょっと鍛えればあのくらい・・・つかもう少しオトナになったら、だな・・・)
妙なところで張り合う気持ちに何故かなってしまう一護。
とりあえず、帰ったら筋トレしよう。そう一護は決めた(爆)。


その映画がR15である理由は、それから程なく一護にも分かった。
街を守る見張り番が、裏切り者の男により酷くも命を奪われ、その首をざくりと落とされたのである。
(あ、あ〜・・・そういう、ことか・・・)
一護は納得したが、画面の暗さと斬られた姿がシルエットであったその演出に心のどこかでほっとしていた。
(ま、まぁこんくれぇなら・・・大丈夫、だよな?)


しかし!映画は残酷にも一護の予想を違う方向で裏切り始めたのだっ!(笑)


軍を裏切り、悪の王の軍門に下らんとした件の男に対し、かの王は”子種は征服者にとって武器であること”を散々のたまり始め。
(ヤ、やめてくれっ井上にそんな話聞かせねぇでくれぇぇっ!)
映画の予想外のR15っぷりに非常に居心地悪い思いの一護をよそに、王は冷酷に部下に命じる。
’貴様の祖先らの、血筋が絶えることを嘆き悲しむ声を聞け。’
脚を大きく開き地べたに座らせられた裏切り者の股間めがけ振り下ろされるハンマー!
(うぎゃあああ!!!そそそ、そんなエグイこと・・・!!)
振り下ろされる途中で暗転したスクリーンを前に、想像を絶するその痛みを我が身に置き換え、思わず前に屈んで身悶えそうになる一護。
(こんな、こんなんを清純な井上が観ちまうなんて!す、すまねぇ井上・・・)
申し訳なさに彼女の方が見られない有様である。


し・か・も。
物語中盤、戦いに傷ついた主人公を看病するあの美しい巫女は、彼に口づけ、そして。
バッ。
(うおおおおおっ!?ぬ、脱ぐなぁああ!)
赤い衣服を床に落とした後の、均整とれた裸身が男のベッドへと誘われる。
(なんだよっオマエっ処女失ったら未来見る力なくすとかいう話じゃなかったのかよいいのかっそれでぇえええ!!)
目だけは釘付けになりながらの一護の疑問は当然届くことなく、二人は再び口づけを交わし・・・
(畜生、R15め・・・って腰!腰動かしてるし!!)
もう当然織姫の方なんて正視出来ぬまま、一護はただただ顔を赤らめるばかりだった。自分のジーンズの前部分を気にしながらも。
それにしてもこの程度のことで反応してしまうとは青いオトコの純情さよ(にや)。
しかし!そんなのは遥か彼方にぶっ飛ばしてしまう衝撃映像がこの後一護を襲うことになるのである(笑笑)。


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