宝文の部屋

□そら様キリ番リクエストSS・2編
1ページ/3ページ





まったくもって、自分の口下手ぶりに。

これほど愛想を尽かした事がない。







【口下手彼氏の誘い文句】






「どーっすかなぁ………」

休み時間、肘付いた手に顎を載せながらぼんやりと呟く。
俺にしては珍しく、本当に珍しく頭を悩ましている訳で。


「はぁ………」

柄にもなく小さく溜息を吐く。




悩みの発端は何の事ない。
井上と一緒に行った買い物の時の事が忘れられないだけ。


数日前に 友達と行くからと井上の新しい水着を一緒に買いに行った。
すげー恥ずかしかったけど、可愛い彼女の頼みだし、と渋々付き合う中。
試着した井上の半端ない可愛さを目の当たりにしてしまい。
それから、どーしても言えない一言が、現在頭を悩ましている原因だった。


「一言『行こう』って言えりゃ、世話ねーよな」

こんな時ほど、自分の口下手さを恨む。



あと1週間で夏休みに差し掛かる。
学生のとっちゃ、夏休みほど嬉しいものはない。
特に彼女持ちとなりゃ、思い出の一つや二つ、作りたくなるってもので。

そんな例に埋もれず、実際自分もそれにあやかろうとしてるんだよなぁ。
なんて、心の中で一人ごちた。


本来自分から行動を起こす事なんて滅多にない俺。
見た目焦ってるようには見せてないけど。
内心、 こんな時どう切り出していいのか解らずに焦りまくっている。
とは言え、もし気の利いた誘い台詞があったとしても、ちゃんと誘える自信なんか、てんでないのだが。


「はぁ………」

今度はさっきよりも大きく、溜息を吐いた。


自慢じゃないが、俺は相当な口下手だ。
口下手どころか、誘い文句すら言った事がない。
今まで必要なかったし、これからも必要だなんて思わなかったから。

けど、井上という最愛の彼女が出来てからはそうは思わなくなった。


彼女の笑顔が見たい。
不器用な俺だけど、彼女と一緒に笑っていたい。


そう思うから。



「………悩んでる場合じゃねーな」


うし!と、軽く気合い入れる。

うじうじ悩んでるのはらしくない。
恥ずかしいとか言ってるようじゃ、口下手だからとか言ってるようじゃ。
この先に進むことさえ出来やしない。


だったら、行動するのみ、だ。



「放課後だな」

小さくそう言いながら、少し斜め前に座る栗色の髪を見つめた。


どんな反応するかは別として。
行きたいのは俺自身だから、今回は付き合って貰おう。
ま、喜んでくれたならそれに越したことはないよな。


そんな淡い期待を膨らませて、次の授業の準備を始める。



実行は放課後。

誘い文句はたった一言。



「一緒に海にいかないか」






end
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ