押入れ

□借り物競争
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秋空晴れて、爽やかに。
今日は、楽しい・・・
「わあああい、体育祭日和ですなぁー!」
「織姫!空ばっか見てるとあんたまた競技前に転ぶよ!!」



<借り物競争>



だ、大丈夫だもん!たつきちゃんの心配には及びませんって!
だってあたしが出るのは借り物競争。
脚の速さよりも、障害物をいかに上手くクリアするか、そして借り物をいかに早く見つけるかが勝負処なんですぞ!

「・・・ってお前、ンな機敏性あんのかよ?」
「まーかせーなさーい!障害物の練習は3ヶ月間みっちり積んだし、どこに何があるかの客席リサーチもばっちりっすから!」
「さ、3ヵ月ぅ??」
その呆れたような声に、気合を込めて胸の前で握り締めてた手が緩む。
「・・・・・・?」
こわごわ視線を斜め上方に上げる、と。
「お前な、どんだけ借り物競争にかけてんだよ!?」
「ふわ!?黒崎くん!!??」
えええっまさかまたあたし口に出してたのぉ??
「ったく、オモシレぇ奴だよな、お前って」
「え、あ、あれ?」

あたしは思わずきょろきょろ。
だって今あたしは、競技に出るために入場門へと歩いてる途中で。
借り物競争に出ない黒崎くんが今こんなとこにいる筈ないのに???
ああっひょっとしてまさか!!
「・・・黒崎くん!だめっだめだよ脱走なんて!!逃亡の旅は長く過酷でご飯も食べられず飢えて路傍の露と消えちゃう!!今ならまだ許そう、おとなしく両手を挙げて戻ってきなさーい!!」
「うぉおっ??・・・だっ誰が脱走だよ!俺も出るんだって借り物競走!」
「ふへ?・・・え、だって・・・?」
そんな訳ないよ、だってあたし黒崎くんが出る競技は全部しっかりチェックしておいたもん!!見逃したくないから!!
「休んだ奴の代わりに出る羽目になっちまったんだって!ンでどこ行けばいいのかわかんねぇって言ったら、たつきが井上についてけばいいって言うから、追いかけて来たんだって!!」


やっと事情が飲み込めたあたしは、入場門まで歩きながら黒崎くんに”借り物競争必勝法!”を伝授。
「大事なのはね、迷わないこと!カードに書いてあるものがどこにありそうかシミュレーション!目星つけたら迷わず突進!」
「シミュレーション?周りみて探すんじゃねぇのか?」
「ちっちっちぃ、漠然と探すんじゃ意外と見つかんなかったりするんだよ?見て’あっこれは!’ってひらめいたものがあれば、それに向かってくのが一番だったりするんだよね案外」
「・・・なるほどな・・・」


ああ、考え込んでる黒崎くんもかっこいいなぁあ・・・
ううう、でも同じ競技に出るってことは、あたしがスタートライン近くで出番待ってる時に黒崎くんが走っちゃうってことだよね・・・
(確か男子のが出走順が先、だからね)
あーん残念、クラス席からならよく見えたのになぁ〜。ああもったいない、借り物競争する黒崎くんの勇姿がぁ・・・


「ありがとな、井上。参考にしてやってみるぜ?」
「は、はいぃ!?ど、どどどどう致しまして?」
「ナニどもってんだよ??」
「や、やー・・・競技前のトランス状態に入ってたといいますか・・・」
「トランス状態???」
「あ、あああほらっもうちゃんと並ばなくちゃ!じゃ、じゃあ頑張ろうねっ黒崎くん!」
「お、おう!井上の努力の結果、楽しみにしてるぜ!?」

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