押入れ

□新学期
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新学期が始まって一週間。
新しいクラスって言っても、相変わらず啓吾は喧しいし、水色のマイペースっぷりもそのままで。
特に変わったことなんてねぇ筈だったんだが。

・・・なんなんだよ、この、なんか足りねぇ感じは。

ふとした時につい、目で探してしまう。
・・・って何をだよ?


<新学期>


朝教室の戸をがらりと開けるとき、その感覚は更に強くて。
「一護〜〜〜おはよげふぅっ!!」
啓吾にエルボー喰らわせながら、ふ、と気がついた。


『おっはよー黒崎くん!』


そうだ。
あの、底抜けに明るい楽しそうな声が聞こえねぇんだ。


ヤ、別に、単に、それだけであって。
単純に朝の挨拶を交わすだけで、その後話しする訳でもなかったんだけどよ。


席についてからも当てなく彷徨う俺の目。
なんだよ。
俺、今まで何を見てたんだってんだ?啓吾の話を適当に受け流しながら。


授業が始まっても、教室の中に何かが足りない気がして。
けれど窓から入った風が記憶を呼び起こした。
ふわっと風になびく胡桃色の髪。
そこだけぱあっと花が咲いたみてぇに空気が柔らかくて。
ふとしたはずみに目が合えば、にこっとしてくれて。


そんな優しい記憶は、一際大きな先生の声で遮られ、簡単な現実を突きつけられる。

ここに、あいつはいないんだ、と。



クラスが違うくらい、なんでもねぇって思ってた。
同じ学校、同じ学年にいることには変わりねぇし。
ちょくちょくその辺で出くわすことだって充分ありうるって。

なのに、気がつけば。
始業式で別なクラスの列に並んでるのを見かけて以来、全然あいつに会ってねぇんだ。
ンなこと、ありかよ?
・・・まさか風邪でもひいて学校休んでるなんてこたぁ・・・ねぇよな??

ぐるり、と重く回る思考。
なんだって俺は、こんなにあいつのこと、考えてるんだ?
たつきとだって茶渡とだってクラス離れたってのに、あいつのことだけを・・・???

ヘンに苦しくなる胸。
居たたまれないような、妙な感じ。

授業中だってのに、気がついちまったその感情に囚われる心。

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