押入れ

□雪ひとひら
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見上げる空は暗くて重いのに
そこからやってくるものはどうしてこんなに軽やかなんだろう。


<雪ひとひら>


部活が済んで校舎を出れば、白くて淡い雪がちらちらと舞っていた。
(わぁ・・・寒いと思ったら!)
マフラーをもう一度巻きなおして、鞄の中の折り畳み傘を確かめて。
勿論傘を差す程の降りじゃないし、差したくないんだけど。
「あんた、またそんな真っ白になって!」
ってたつきちゃんに叱られる声が聞こえた気がしてつい、ね?

ふわふわ、ふわふわ降る雪と共にゆっくり、ゆっくり歩いてみた。
ああー・・・なんだか真っ直ぐ帰っちゃうの、もったいないよね?
こんな日は空の見える場所に寄って行かなくちゃだよ?


あたしは河原に進路を変更。
公園とどっちがいいか迷ったけど、より空が広く見える方を選んだの。


土手の上でただ立って空を見上げた。
ねずみ色した低い空は、なんだか不機嫌そうだけど。
ちゃんと知ってるよ、こんなに素敵な贈り物を抱えて運んで来てくれるのを。

・・・似てるな。なんて急に思った。
いつも眉間に皺寄せてて、でも心の中は誰よりやさしい人の姿を思い浮かべて、胸があったかくなる。


ふわふわ降る雪をじっと見上げていると、体が空に昇ってゆくよう。
不思議だな、不思議だな。
ふうわり昇っていったあたしは、ほっぺに感じる儚い冷たさで地上に戻る。
・・・どうせなら、お口でぱくん!ってしたいなぁ・・・


むむぅ。
これは、なかなか・・・難しいですなぁ?
あっ来た!って思っても、次の瞬間ほわりと逃げちゃうの。
なかなかやりますな、雪さん。さすが遠い北の国で特殊訓練受けて来ただけのことはありますな?
しかしこの井上織姫とて負けませぬぞ?
虎の穴での辛く厳しい日々を栄光に代えるために、いざ尋常に勝負勝負ー!!!


ぱくっ!
「やった!やりましたっ井上織姫!!長き戦いの日々に終止符を打つ快心の一撃炸裂!!ああこれで故郷に錦を飾ってオープンカーで祝賀パレード、散るは桜か山吹か!」
「・・・って一体季節はいつなんだよ・・・」
「あっまだ冬だね!じゃあ色とりどりの紙ふぶき舞う中、凱旋のスピーチを求められ『克己心こそが勝利の鍵でした!』と涙ながらに語れば綺麗な娘さんによる花束贈呈が!!」
「・・・相変わらず楽しそうだな・・・」
「うん!やり遂げた後の満足感は格別っすから!!」


・・・あれ?あたし、誰と会話してる、の??

・・・・・・
・・・・・・・・・
ま、まさか、こ、このパターンは・・・・・・?

おそるおそる振り向けば、モノトーンな景色の中で一際目立つオレンジ色。
「ヤ・・・土手の上で妙な踊りをしてる奴が居んなぁ、って思ったらよ・・・」
「へ・・・ひゃ、ひゃああああああああ!」

もう、もうもうもうもう!あたしってば!!
というかなんでこう黒崎くんてば突然ひょいひょい現れるのぉ??あああーどうしようどうしよう・・・
「かまくらがあったら入りたい・・・」
「あ?」
「イグルーでもいいなぁ・・・もう一生閉じこもって・・・ああでもお腹空いちゃうよねぇ・・・?」
「・・・おい・・・井上?」
「・・・そうだっ中でお餅焼いて過ごしてれば大丈夫かも・・・あっしょうゆときな粉は欠かせないっすねぇ・・・」
「ってぉおい??ちゃんと戻って来い井上!ここは土手の上だし、雪も積もっちゃねぇっての!!」

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