押入れ

□紅葉と神様
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あのね、あのね
紅葉の山には秋の神様がいるんだよ
大好きな人を縫い物しながら待ってるんだよ

ほんとにほんとだよ
だってあたし、ちゃんと見たんだもの


<紅葉と神様>


朝晩が寒くなると山は一斉に色を変えるの
黄色に橙に赤に胡桃色に
思い思いに装った木々に囲まれた道は不思議に明るくて
夏の緑の深淵がうそのよう

落ち始めた枯葉を踏みながら歩けば
楽しい音がかさりこそり
うれしくてただ下を確かめながら進んでいったの
綺麗な落ち葉を捜しながら

そうしたらね、いつのまにか迷い込んじゃったの
秋の神様の秘密の場所に

うん、綺麗な綺麗な紅葉に囲まれて、神様は座ってました

長い、長いさらさらの明るい髪の毛
紅葉を透かしてそそぐ日差しに包み込まれてきらきらと輝くその身体
服はやっぱり秋の色

座り込んだその手には綺麗な布と小さな針
ちくちく縫い進める様子はとっても一生懸命で
かわいいなぁなんて思わず思ってしまったの



急にどこかで何かが低く壊れた
びりびりと震える空気
黒い気配をまとって恐ろしく

神様も手を止め立ち上がって空を仰ぐ
それはもう真剣な、でも透きとおった眼差しで

ちいん、と澄んだ音が響く
乱れた空気が巨大な何かに引き裂かれて
あの恐ろしい黒い気配が消えてゆくのがあたしにもわかった

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