押入れ

□素敵な誕生日
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「織姫、今日一緒に帰れなくてごめんね?」
「ううん、全然そんなことないよたつきちゃん!今日はありがとう!」

しきりにすまながるたつきちゃんに笑顔で答えて、何個もの綺麗な包みの入った紙袋を両手で抱えた。
「結構かさばってるけど、大丈夫?」
「だーいじょうぶ大丈夫っす!みんなの気持ちをこーーんなにもらえたあたしは世界一の幸せ者っすから!!」
そう、この紙袋の中には。
お弁当の時間に、みんながくれたプレゼントが一杯なの。

『織姫お誕生日おめでとう!』
ってみんなが言ってくれた時は驚いちゃったなぁー。
休み明けテストが終わってほっとしたお昼休みにこーんな素敵なことがあるなんて。
「みんなと出会えてよかったな」
思わず口に出して言って、それからもう一度紙袋を抱きしめて。


うん。こんなにみんなからお祝いしてもらえたなんて、とっても素敵な誕生日。
だから平気だよ、帰りが一人だって。
アパートの部屋に帰っても、きっときっと今日は寂しくないよ?



<素敵な誕生日>



「よし!ここは一発ケーキでも奮発しちゃおっかなー!あっでも手が一杯でケーキ持てないや、どうしよう???」
帰りの道すがらにうーーむ、と考え込むあたし。
ああいっそ頭に長ーいカゴ載せてくればよかったなぁーそしたらプレゼントと鞄をそこに入れてケーキ屋さんへ・・・
「だっだめだよ!ケーキ屋さんには厳重な警戒態勢が!あたしってば制限高度違反!!」
「・・・何が違反なんだ?」
「だってコック帽より高さがあったらいけないんだもん!!あっという間に足元に空いた穴にすってんころりでその先には地下220メートルまで続く巨大シューターが・・・」
「どんなケーキ屋だよそれ!!」

あれ?
「なんか今ツッコミが・・・??遂にあたしお笑いの道を極めるためのセルフツッコミモード搭載になっちゃった?」
「なんだそれは!?どんなモードだよっ!?」
って??あれれ?
このツッコミ声って・・・??

あたしは新幹線よりも速く振り返って。
「うひゃわわ!くっ黒崎くん!?」
「・・・おう。」

そしてジェット機並みの速度でまた前に向き直った。

うひゃあああ、あたしったらまた黒崎くんの前で失態を・・・???

「おい?井上??」
「きゃん!?」
「・・・何度驚けば気が済むんだよ・・・?」
「あああああ!ごっごめんなさい今丁度地下300メートルまで落ちていっちゃってね?だから音がなかなか届かないっていうか!!」
「・・・・・・」

ふええどうしよう、黒崎くん呆れてるよね??
「あ、あはははは・・・っという訳で!大変失礼致しましたぁ!」
いたたまれないあたしは思わず敬礼してぎこしゃこと歩き出すと。
「ちょ!待てって!」
「ふひゃ?」

前に回りこまれたあたしは急停止すると、その暖かなオレンジ色を見上げた。
「・・・?」
「あーーー、その、だな・・・?」
??
なんだか歯切れ悪い物言い。何故かあたしの周りを彷徨ってるその目線。
「・・・ど、どうかしたの??黒崎くん??」
「あ?・・・だ、だからだなぁ・・・」
ガサリ、とあたしに抱えられてたプレゼント入り紙袋が音をたてた。
「ふえっ???」
「・・・ちゃんと前向いて歩け。これは持ってやるから・・・」
「えええっ?だ、大丈夫だよ一人で持てるし!」
「・・・ケーキ屋、行くんじゃねぇのか?持ちきれねぇんだろ?」
「えっ!どうして知ってるの黒崎くん??あたし考えてただけなのに!?」
「バッチリ声に出てたっての!」

きゃーあーあー!!
ってことはってことは!?
「くっ黒崎くんっ!ひょっとしてずっとあたしの後ろに?!」
「あ?・・・いやっずっとじゃねぇ!ずっとじゃねぇけど!たまたま聞こえちまったっていうか!」
頭をガリっと掻いた黒崎くんがなんだか可愛くみえちゃったのはどうしてかなぁ?
「だ、大体な!ンな袋抱えて前が見えてんのかどうかわかんねぇ様子でふらふら歩いてちゃだめじゃねぇか??」
「・・・え?・・・そ、そんなことないよぅ・・・」
「ったく、ただでさえ転びやすいくせに・・・危なっかしくて気になって、よ・・・」
「ええ!?ひょ、ひょっとしてそれでわざわざ・・・??」
「・・・お前だって、今日怪我なんてしたくねぇだろ?」
それだけ言ってぷいっと歩きだした背中に、うれしくなってお礼言ったの。
「あっありがとう黒崎くん!」
「・・・どういたしまして・・・」


いいのかな?
黒崎くん、他に用事はないのかな??

そうちょっぴり思いながらも、心の大部分は違う風に思ってたの。
”黒崎くんと一緒に帰れるなんてうれしいよぅ〜〜〜!”って。
神様ありがとうございます。こんなプレゼントまでもらえちゃうなんて・・・ホントにいいのかないいのかな??

ああ今日は。
なんて素敵な誕生日!!


end

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